SFLCが顧客リストにWineを追加

本日、Wine Projectへの無料法律サービスの提供を既に開始しているとの発表がSFLC(Software Freedom Law Center)からあった。これは、SFLC会長、Eben Moglenが「FOSSエンタープライズ・ソフトウェア・スタック全体の法的防御」と呼ぶ活動のほんの手始めにすぎないという。

SFLCの無料法律サービスの提供先について言及する中で、Moglenは「今後、OSの各種コンポーネントやアプリケーション層の特別重要な製品など、FOSSエンタープライズ・ソフトウェア・スタックに欠かせぬ要素を積極的にカバーしていくつもりだ」と述べた。この4カ月か6カ月のうちに多くの提供先が発表される予定だ。それらのプロジェクトはFree Software FoundationSamba Project、そして当のWine(既にSFLCのサービスを受けている)にその力を結集することになるだろう。Moglenの指導の下、SFLCは著名な弁護士であるDiane Peters、Lawrence Lessig、Dan Ravicherの三氏を迎え、オープンソースの法的問題への対応能力も万全だという。

Wineがもたらす相互運用性

Wineが相互運用の中軸を担うことを考えれば、WineをSFLCのサービス提供先に選定したことは当然の成り行きであるとMoglenは述べている。相互運用はFOSS(free and open source software)とオープン・スタンダードに関するSFLCの主張、運動の中で特に重要なものと位置づけられる。

「Wineは我々の扱う製品ラインに相互運用性をもたらす鍵となる。Wineによって事業者は自分のWindowsレガシー・アプリケーションを取り込むことができる。WineがWindows APIを取り込む事実は重要で、Wineを利用することの法的正当性が保証されて初めて我々の目指す相互運用の世界が開かれる。SFLCとしては、我々の抜擢した相互運用ツールが、我々が胸を張って使うことができるツールになるものと確信している。これはFOSSの完全な相互運用を実現する重要な一歩となる」

ソフトウェア・コードの受領と実装を統括することに関してWineが「一点の曇りもない堅固な内部組織」を持つこと、コードの出所を証明すること、そのためにSFLCはWine Projectの関係者と連携して活動するとMoglenは述べている。

非営利のFOSSソフトウェア開発集団はたいてい適切な法律相談を受ける資金的余裕がないので、MoglenはWine Projectを顧客リストに追加したわけだが、それも含め近く追加されるその他の顧客のソフトウェアは法的な安心を求める事業者にどんどん使われようとしている。

オープンソースに関する法律の権威であるMoglenによれば、SFLCの活動にはFOSS系の非営利団体の扱いに長けた弁護士が必要で、加えて、FOSSで儲ける企業が、より小さなプロジェクトを支援することも必要だという。企業は弁護料を持つことでFOSSコミュニティにお返しせよというわけだ。

「FOSSで大儲けしている会社に出向き、開発工程の上流に力を注ぐよう忠告する」と彼は述べている。法律面の支援によって企業のサプライ・チェーンにおける安心感が高まり、顧客満足度が向上し、いまや事業者にとって欠くことのできない存在となった非営利組織がより自信を持つようになるというわけだ。

エンタープライズ向けのFOSSプロジェクトを巡る法的正当性の問題に取り組むときも、SFLCはFOSSプロジェクトに以前考えられなかったほどの余裕を与えるとMoglenは述べている。

「我々は、まるで譲歩の余地がない取引はきっぱり断れと勧めることができる。しかも、世界に通用する法定代理人が無料で請け負うのだ」

心理的抵抗と法的FUD

Wine Projectの主任保守管理者であるAlexandre Julliardが、あるメールで述べているところによれば、Wineのユーザーが増えているにもかかわらず、IBMなどの主要企業の側に、FOSSへの好意とは裏腹に当該ソフトウェアの使用や開発をためらう様子がまだ見られる。彼らが不安を抱くのは、プロジェクトに法務担当主任がいないことと、Julliardが法的FUDと呼ぶものに起因しているという。

「Wineとの連携に関して主要企業の心理的抵抗が最近ますます大きくなっていることが気になる」とJulliardは書いている。「IBMが顕著な例だ。IBM社内では多くの人たちがWineを使用し、その開発に携わっているはずだが、IBMはそもそもWineと関係していると受け取られることを望んでいない。我々は我々の存在を認めさせることすらできずにおり、これはIBMの法務部門がWineを恐れているからに他ならない。WineのまわりにはIBMのような企業の法務部門を尻込みさせる法的FUDがかなり存在するようで、我々はこの問題と取り組む必要があると考えている」

Julliardによれば、SFLCがWine Projectのために最初に行うべきことは、主要なLinux企業の法務部門と話し合い、著作権、特許、Microsoftへの懸念などの問題をあぶり出し、問題と取り組むための計画を立てる手伝いをすることだという。「誰もが法的問題を気にせず、安心してWineを使えるようにすることが重要だ」

SFLCでのWineへの取り組みに言及して、Julliardは「彼らのために良い意味で興味深い仕事を多くできるものと思う」と述べている。

ソフトウェアの開発とディストリビューションを巡る法的問題にプロジェクトが以前どう対応していたかとの質問に答えて、Julliardはプロジェクトにそのための系統だった組織は存在しなかったと述べている。

「それは、ほとんど常識とも言える原則で、たとえば、公式の情報だけを使えとか、適合ライセンスのないプロジェクトからコードをコピーするな、Windows下でテストプログラムを実行して挙動を調査するような安全なリバース・エンジニアリング技法だけを使え、といったことが問題とされる。Windowsコードの逆アセンブルや調査は許されない。それを行ってきた人たちは、コードのコントリビュートを禁じられる。私はコード・ベースを行き交うコントリビューションを一片たりとも見逃さないようにしており、ほんのわずかでも疑わしいものは不合格にしている」

「私は、Wineの法的基盤が揺るぎないものと固く信じている。それを人々に納得してもらえるかどうかだけが問題だ。SFLCとの協力はこの目標を達成するための必要な知識と信頼を我々にもたらしてくれるものと思う」

FOSSの優先度の設定

ソフトウェア関係の法律の専門家でTownsend and Townsend and Crewの共同経営者でもあるPhil Albertは、SFLCのことを、弁護士を雇う余裕のある企業のプロプライエタリ・ソフトウェアにありがちな法務上の方針や手続きに対抗するための方策をFOSSプロジェクトに与えるものと評価している。

「私がSFLCを必要と感じるのは、オープンソース・コミュニティ(開発者とユーザー)が気晴らしのためではなく、きちんと態勢を整えてソフトウェア開発に臨もうとして奮闘しているからだ」とAlbertは述べている。「当然ながら、オープンソース・コミュニティは、そうした機能の実現がまだこれからのことだと承知している」

FOSSプロジェクトによく見られる分散開発環境だと話はもっと複雑かもしれないが、法的支援はFOSSコミュニティの利益になるばかりでなく、プロプライエタリ・ベンダがオープンソースのツールやコンポーネントを安心して使えるという効果ももたらす。

Albertによれば、彼の会社はFOSS組織に無料法律サービスを提供してきたそうだが、SFLCの登場はオープンソース・コミュニティの成熟の兆しでもあると述べている。

また、SFLCの効果はもう1つあり、ソフトウェア開発者はもちろん、弁護士もオープンソースの法的問題についての知識や経験を増やすことになるという。

「弁護士の仕事は、新しい問題にすばやく対応することだ」と彼は述べている。「SFLCは、無料法律相談の世界でとてつもなく有用な存在となるだろう」

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