CivicSpace Labs: オープンソースによるベター・ポリティックス

オープンソース・ソフトウェアは、今やどこでも使われている。警戒下の選挙運動事務所も例外でない。Zack Rosenによれば、昨年行われた米国大統領選挙の運動期間中、Howard Dean陣営のスタッフ・スピーチライターが彼のラップトップのLinuxを使わせてくれと頼んできたという。

Zack RosenはDeanSpaceのWeb開発者であり、専門のボランティア・コーディネータやWebラジオのプロデューサとしても活動している。Rosenは、Dean陣営の選挙参謀Joe Trippiのことを「オープンソース・ポリティックス(open source politics)の概念について意味のある話し合いを始める説得力を持つ初めての人物」と評す。Rosenのほか、Dean陣営とWesley Clark陣営の以前の仲間たちが、彼らの新しいプロジェクトであるCivicSpace Labsの将来を、オープンソースとポリティックスは「草の根選挙運動」の中で共存可能とのアイデアに賭けたのである。

CivicSpaceは、Dean・Clark両陣営の技術部隊が取り残したものを拾い上げている。かいつまんで言うと、革新政治団体の組織支援、Webサイト、ブログ、フォーラム、フォト・ギャラリーなどの公開、選挙人名簿の作成や世論調査、イベントの準備、メーリングリストの作成、等々を実現する一連のGPLedツールの開発に取り組んでいる。CivicSpaceの共同創設者で理事を務めるRosenは、政治団体を念頭に置いて設計されたソフトウェアだが、違った種類の市民グループ、たとえば詩人の集まりや教会、さらにはキツネ狩り情報ポータルなどでも使われていると語る。

CivicSpaceのビジネス戦略担当理事Andrew Hoppinによれば、政治的な組織化の観点からオープンソースは草の根組織の予算面とタイムスケジュールにアピールするという。Wesley Clark陣営の技術スタッフとして活動した経験を踏まえて、Hoppinはこう分析する。「無数の組織に無料で機能を提供する必要があったが、それは法律面(選挙献金の制限)と財務面(選挙活動に対するテクノロジー主導アプローチの実績がないため予算がなきに等しい)の2つの理由からだった。さらに、必要な技術開発スタッフを雇う余裕はのっけからなかったが、選挙戦にいつでも喜んで協力してくれる技術担当の有志が何十人もいた。オープンソース・ソフトウェアのおかげで、インストール数やサーバーまたはシートライセンスの数を気にする必要がなかったし、法務によるソフトウェア契約の完了を待たなくてもよかった。」同時にHoppinはこうも付け加える。バルク・メールやオンライン献金などの一部の分野では、アプリケーション・サービス・プロバイダの提供するプロプライエタリ・ツールの方が有利で、「このようなクリティカルな機能に関してオープンソース・ツールの改良を待つことは選択肢とならなかった」と言う。CivicSpaceは現在まさにその分野に取り組んでおり、次の選挙戦までにはもっと選択肢が増えているだろう。

現在、CivicSpaceは5人の有給常勤スタッフと、輪番制の短期契約部隊、数人のインターン、そしてインキュベータの手配するバックオフィス・サポートで構成される。CivicSpaceのサンフランシスコ事務所の仕事は、200地域を超えるユーザー・コミュニティとの交流、CivicSpaceの活動を広く売り込んで行く行くは自立を目指すこと、そして無論、これらを統括するソフトウェアの開発である。

技術面でCivicSpaceの基盤となっているのは、オープンソースのDrupalコンテンツ管理プラットフォームである。なぜDrupalなのか? Rosenはこう語る。「Drupalは、我々にとって当然の選択である。開発環境が非常に軽量なこと。開発済みの諸機能だけでなく、当該コミュニティの関心の的が我々の理想とほぼぴったり一致すること。開発ペースが驚異的なこと。Drupal.orgの投稿数はまさしく指数的に増加している。だが、我々は黎明期にあるRuby on Railコミュニティも見守っており、また不屈にもZopeとPloneを基盤とすべく頑張っている人々にも多くの敬意を払っている」

CivicSpaceの哲学を一言で表すと、「内なるオープンソース、外なるオープンソース」となるのかもしれない。それはRosenとHoppinが、彼らの組織の根幹をなす理念のひとつは「本質的にオープンソースなマーケティング運動なるものを市民が自分たちの信ずる理由から強力し合って実施できること」と語るところによく表れている。CivicSpaceのスタッフにとって、この哲学を広げることは「伝統的色彩の強い閉鎖組織から我々の競争相手と目されるかもしれない組織を積極的に支援すること」であり、またCivicSpaceのやることで別の組織が進歩するなら「大樹の陰に身を寄せる」ことも厭わないことである。

現在、CivicSpaceはソフトウェアの新バージョンを1ヶ月おきにリリースしており、CivicSpace製品のサポートとカスタマイズのために1桁以上のベンダやコンサルタントがサービスを提供している。現在のバージョン0.8.0.4ではLAMPサーバーにアプリケーションをインストールするのに少し熟練が必要だが、標準パッケージにはその手順を無事に進めるインストール・ウィザードも用意されている。CivicSpaceがバージョン1.0で目標とすることのひとつは、「製品としての完成度」を高めることであり、標準バージョンはもっとインストールが簡単で使いやすいものとなるはずだ。Hoppinが強調するように、Electric EmbersやPoint0.netなどのISPは既にCivicSpaceのソフトウェアを熟知しており、技術的熟練の乏しいグループに向けて、これをベースとする完全なASPサービスが今年後半には登場する。

政治活動におけるオープンソースの役割を政治家はどう評価しているかとの問いに、「政治家はまだ登場していないが、行政担当者や運動員は理解し始めている」とRosenは言う。Hoppinはこう付け加える。「オープンソース・ポリティックスの影響力が、我々が現在CivicSpaceコミュニティの中で見ているものと同程度であるとするなら、今回の大統領選挙で我々が目にした進展は氷山の一角に過ぎない。ほとんどの政治家は自分の船が何隻か沈むまでさほど注意を向けないのだろうが、2006年までに難破船がかなりの数に上ることは間違いない」

CivicSpaceの “About” ページを見れば、彼らが若者であることはすぐわかる(特に彼らの写真がページから外される以前はそうだった)。Rosenと彼の大学時代の友人であるNeil Drummが共同創設者で、彼らはHack4Deanに取り組むためにイリノイ大学を中途退学した。そのプロジェクトに決着をつけた後、Rosenは「ハンバーガーを食いながらシリコンバレーのベンチャー・キャピタリストAndy RappaportにCivicSpaceを売り込み、20分後に支援を取り付けた」のである。

現在、ベンチャー・キャピタリストから慈善資金の提供を受け、CivicSpaceは次の大統領選挙に向けて準備をしている。このための具体的な進展の方向は、自立できるだけの収入源を持つ非営利団体になることである。さらに、これをKintera、GetActive、Convioなどのプロプライエタリな競争相手と同じ程度に使いやすいものにしたいと考えている。

CivicSpaceは、より「成熟」した組織が手を出しかねていたオープンソースの政治的土壌を崩しつつある。CivicSpaceの20代から30代の中心メンバーを40代から50代のアドバイザーとボランティアが支えているとはいえ、若くエネルギッシュな開発者たちの底力に注目して、Hoppinはこう語る。「これは時に昔からのやり方にこだわらない方向へと向かう。歴史や伝統や社会通念にとらわれず、想像力の限りを尽くして自由に思考を膨らませることができるのだ」

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