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ソフトウェア特許コンファレンスで提示された問題とソリューションの概要

2006年11月30日 09:41 1 2
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11月17日、「Software Patents: A Time for Change?」(ソフトウェア特許に変化の時代到来か?)と題されたコンファレンスが、Boston University Law SchoolとMassachusetts Institute of Technologyによって開催された。コンピュータのヘビーユーザと法律家が同席するという一風変わった本コンファレンスにおいて様々なパネラーが総計10時間にわたり繰り広げたのは、ソフトウェア特許にまつわる問題や想定されるソリューションについての討論であった。

パネル1:メインディベート:ソフトウェアに関する特許法とそのリフォーム

本コンファレンスの口火を切ったのは、Computer & Communications Industry Associationの上級研究員およびUniversity of Michigan School of Informationの非常勤講師を務めるBrian Kahin氏による、ソフトウェア特許に関する問題点の説明であった。ここで解説されたのは資産としてソフトウェア特許を取得した企業についてであるが、同氏が想定していたのは、自社で開発中のテクノロジと関係の薄い特許を多数申請ないし買収したというケースである。ソフトウェア産業においてこうした行為の多くは、同業他社が特許資産を利用した賠償金目的で仕掛けてくる特許訴訟に対する防衛策として行われている、とのことだ。

欧州連合(EU)におけるソフトウェア特許の現状について解説をしたのは、Foundation for a Free Information Infrastructure(FFII)のメンバであり、2003年から2005年にかけて同組織におけるイギリスでのコーディネータを務めていたJames Heald氏であった。同氏の説明によると、過去に同地域で特許訴訟が起こされたことはないが、ソフトウェア特許については、関係する司法制度そのものに一貫性が欠けているとのことである。ヨーロッパの特許管理当局は、特許として申請しうるソフトウェアの要件について非常に漠然とした規定しか定めておらず、具体的にどのような要件であるかをHeald氏が「テクニカルな問題に対するテクニカルなソリューション」とされていますと説明すると、会場はクスクスという笑い声で満たされた。Heald氏によると、欧州憲章には特許に関する記述が無く、裁判所への問い合わせも簡単には行えないため、ヨーロッパにおけるソフトウェア特許の将来的な展望には憂慮すべき不鮮明さが漂っているとのことであった。実際のところソフトウェア企業の大半、特に小規模な会社がこの種の問題を考える場合、業界全体が著作権という枠組みで規制されていると見なす傾向にあるとのことだ。

パネルの第1部を総括したのはBerkeley Center for Law & Technologyの取締役を務めるRobert Barr氏であった。Barr氏の説明によると、多くの法律はソフトウェアとハードウェアを区別しておらず、そのような体制をもたらした源流は、半導体産業がソフトウェア産業を規制する目的で整備された法律にまで遡れるとのことだ。こうした体制にほころびが生じるのは、ハードウェア製造者がソフトウェア開発に手を出した場合であり、具体的な事例としてはCisco Systemsの試みた自社のネットワーク製品に対する独自オペレーティングシステムの実装などが挙げられる(Barr氏は以前にCisco Systemsの知的所有権についての責任者を務めた経験があり、同社の特許コンサルタントとして活動していた)。次にBarr氏は、現在進められている特許関連法のリフォーム構想について触れ、そこでは損害の分担や意図的な権利侵害に関する改善が検討されていると語った。もっとも、こうした試みが有効に機能するかという点になると、同氏は懐疑的な態度を示していた。

パネル2:ソフトウェア特許に関する実証的証拠

パネルの第2部は、University of California Berkeley Graduate SchoolおよびEconomics of Technology and Innovation at the University of Maastrichtにて教授を務めるエコノミストのBronwyn Hall氏による、数理経済学的な分析結果の解説で始められた。同教授は1つのイベントスタディとして、1994年から1995年の間に起こされた特許訴訟がソフトウェア産業にどのような影響を及ぼしたかを説明し、企業にとってソフトウェア特許が益をもたらす存在であるのかを論じた。ここで報告されたケースは比較分析をする関係上、ソフトウェア業界に属さない複数の株式公開会社企業のデータを基にしている。Hall教授による分析結果は、In re Alappat 33 F.3d 1526(Fed. Cir. 1994)、In re Warmerdam 31 USPQ2d 1754(Fed. Cir. 1994)、In Re Lowry 32 F.3d 1579(Fed. Cir. 1994)、In re Beauregard 53 F.3d 1583(Fed. Cir. 1995)に関係したハードウェア/ソフトウェア企業および、米国特許商標局(USPTO)のガイドラインを基に、5日分の市場効果を計算したものである。そして同教授の導き出した結論とは、ソフトウェア特許の中には有益な効果を及ぼしていないものが多く存在し、しかもその割合は上昇傾向にある、ということであった。

ソフトウェア開発者側の観点からの見解を述べたのは、Boston University School of Lawで講師を務めている Jim Bessen氏であった。Bessen氏が示したのは、ソフトウェア業界において1つの企業が特許訴訟に巻き込まれる可能性に関する統計値である。結論として同氏は、特許訴訟で失われる損失は得られる利益を上回っていることを明言した。

パネル3:FOSSコミュニティ、起業家、標準、情報通信、電子商取引、金融サービスにまつわるソフトウェア特許

FOSSコミュニティを代表して発言したのはMIT Sloan School of ManagementにてTechnological Innovation and Entrepreneurship Groupの代表を務めるEric von Hippel教授であり、分散型の開発ネットワークがどのようにテクノロジの発展に貢献し、新奇的な考案に対する権利や報酬がどう扱われているかを解説した。von Hippel教授は1つの事例としてPostgreSQL v7.4のインテリジェント・データ・バキューミングのケースを取り上げ、この機能の設計や開発に寄与した人間の数を示した上で、このような機能を実装する行為は特許という枠組みに収めることが不可能であることを論証したのである。「開発の成果を特許として申請するのは、いわゆる発明者に相当する人々ではなく、雇用者である企業が行っているのです」。

起業家側からの意見を述べたのは、Berkeley Center for Law and Technologyの所長およびElectronic Frontier Foundation(EFF)の理事会メンバを務めるPamela Samuelson氏であった。Samuelson氏は創業間もない企業に注目して、大部分の起業家はソフトウェア特許への関心が薄く、その影響についても意識が低いとしている。創業間もない企業によるソフトウェア特許への関心が薄いのは、これらの企業はUSPTOへの特許申請による既得権益を有しておらず、また事業規模も小さいので恐喝的なパテントトロール(patent troll)に狙われる危険性をあまり感じないためである。ただし、こうした企業が新規株式公開を行うレベルに成長すると、パテントトロールに狙われる危険性も高くなる。Samuelson氏も他の講演者と同様、現状の特許申請システムをリフォームする必要性を訴えていた。

標準という観点で講演をしたのは、W3CのTechnology and Society Domainのディレクタを務めるDaniel Weitzner氏であった。Weitzner氏の説明によると、設立当時のW3Cはテクノロジ的な側面に集中していたため、特許というものを意識してはいなかったとのことである。つまり、技術使用のライセンスに関する標準の制定がW3Cで検討されることはなかったのだが、開発者は従来そうした活動に関与しないのが通例であったため、そのような発想自体に思い至らなかったのである。これまでインターネットの世界は、いわゆる習慣法的な標準によって規制されてきた。そのため、すべての開発者が同意してライセンスに関する標準を一元化するとなると、関係者の数の多さと多様性が障害となるのである。

ソフトウェア特許に起因した言論の自由の規制という観点から情報通信の分野をカバーしたのは、EFFのPatent Busting Projectにて法律スタッフを務めるJason Shultz氏であった。同氏は、特許資産の存在は独占状態を生みだし技術革新を阻害すると語り、その事例としてブログに関する特許の申請数は200件にも及んでいること、そして、データへのアクセスや人々の社会的交流の手法については既に無数の特許が取得されていることに言及した。Shultz氏は、例えば電話などソフトウェアでないものの特許とソフトウェアの特許では違いがあることに触れ、ソフトウェアの場合「新奇性をもたらしたのは人間の役割であったが、そうしたものはテクノロジには当てはまらない」としている。その後Shultz氏は、ソフトウェア特許を取得した者は他の企業を狙うのではなくエンドユーザの利益に反する活動をするようになると続けた。例えば、仮にブログ関連の特許申請がいくつか認められたとすると、Bloggerを買収したGoogleなどは特許侵害の訴訟に巻き込まれる可能性が非常に高くなるであろう、とのことだ。

電子商取引の分野について述べたのはeBayで特許関係の相談役補佐を務めるEmily Ward氏で、同社が体験したソフトウェア特許に関する事例を紹介した。同氏は「ソフトウェアだけを特別扱いする理由は何もありません」と強調しつつ、この分野において特許侵害訴訟のターゲットとなるのは主としてソフトウェア企業になるだろうが、その理由としてソフトウェア特許が容易に取得できる点を指摘している。また大手企業の大部分は各自の有す特許権を行使しようとしないだろうが、それは最終的な利益をもたらさないからである。仮にこうした企業が大手の同業他社と相対する状況になった場合、相手側も豊富な特許資産を抱えているはずであり、どちらも勝利者とは成りえない可能性が高く、それは核戦争においては勝者など存在しないと言われているのと同様であると。ところが、規模の小さい企業ではこうした点は鑑みられない。そして往々にして見られるのが、企業が赤字経営に転落した際に、保有特許を利用した特許侵害の訴訟により損失を補填しようとするケースだ。具体的な例としてWard氏は、eBayの場合は毎年100近くの特許関連訴訟に巻き込まれているという点を強調していた。こうしたパテントトロールたちは、特許の法的効力を軽視する傾向の強い自治体を選んだ上で、侵害訴訟を起こすケースが多いとのことである。

この部のパネルを締めくくったのはFederal Reserve Bank of Philadelphiaの調査部門でシニアエコノミストを務めるBob Hunt氏であった。冒頭Hunt氏は、金融サービスとソフトウェアとがどのような関係にあるかを、統計的モデル、データの結合(信用情報など)、ヘッジテクノロジなどを実装する場合を用いて説明した。同氏はより大局的な観点からソフトウェア特許について語り、「特許の軍拡競争」を繰り広げるだけでは企業の研究開発に貢献しない特許が増えるだけであって、特許のあり方としては、特定のテクノロジと密接に関連した曖昧性の低いものが望ましい、との持論を述べている。同氏は、専門家でない業界人が特許を申請するとダメージは更に広がり、市場全体としての革新性を損ねる方向に誘導しかねないと警鐘を鳴らした。

Samuel-Kotel-Bisbee-vonKaufmann(2006年11月27日(月))
2007年07月01日 19:05 更新