オープンソースソフトウェアが活動家たちに注目されない理由

理屈のうえでは、フリーおよびオープンソースソフトウェア(FOSS)には倫理的および社会的問題に携わる人々の関心に直接訴える力があって然るべきである。だが実情はかなり違っている。FOSSおよび活動家たちの両コミュニティが倫理的に共通の立場を取り、表現の自由に始まり、組合組織、消費者の権利やプライバシー、独占禁止法に至るまでの各種の社会的関心を共有することは多いのだが、この2つのグループはほとんどと言っていいほど互いに関心を示そうとしない。一体なぜだろうか。

FOSSと活動家のどちらの領域にも馴染みのある人々は、FOSSを活動家たちに受け入れてもらう以前にいくつか克服すべき問題があることに気付いている。こうした問題には、FOSSコミュニティの度量が狭いこと、テクノロジに疎い活動家たちに適切な言葉で語れていないこと、良好な関係が築けていないことが含まれる。結局、FOSSの問題とそれ以外の問題、双方の根底にある価値観に目を向けない限り、両者につながりが生まれることはないだろう。

FOSSコミュニティ内の問題

Henri Poole氏は、活動家向けにインターネット上の運動を計画する仮想企業CivicActionsのメンバーだが、フリーソフトウェア財団(FSF)の理事、そしてDefective By Designの実行委員も務めている。彼はFOSSと活動家の両コミュニティ間の交流の欠如を、ヨーロッパにおける言語の異なる者どうしのコミュニケーション不足にたとえている。どちらの場合も、言葉の壁に加えて文化の違いがを分断を引き起こしている。FOSSコミュニティのメンバーは、自分たち好みの専門用語が使える仲間どうしでは倫理的および社会的問題について気張らずに語ることができるが、「雰囲気の異なる」外部の人々とはそれができない、とPoole氏は述べている。FOSSコミュニティの人々は「外の世界に出た経験があまりないので、経済や宗教の領域に公平さを求める、自分たちと非常によく似た人々の存在を知らないのだ」とも彼は言う。

比較的FOSSコミュニティの年齢層が低いことがもう1つの要因ではないか、とPoole氏は考えている。成熟という概念を、他者との関係を深める段階的な過程と捉える彼は、多くのFOSS支持者が自分たちと社会的活動家との類似性を受け入れられないのは年齢が若過ぎるからということもあり得るとしている。

むしろ、若いFOSS支持者たちの目は違いのほうに向けられることが多い。一部の活動家団体では ― すべてではないが ― メンバーの平均年齢が上昇する傾向にあることが、この問題をさらに複雑にしている。FSFの理事でDefective By Designキャンペーンの中心的な実行委員でもあるPeter Brown氏によると、FSFは「我々のメーリングリストや活動の参加者には30歳未満の人々が相当いる」ことに気付いているという。これに対し、自らが活動への参画を呼びかけた政治意識の高いある雑誌では読者の平均年齢が40歳を優に超えるだろう、とBrown氏は推測している。

スカウト活動やキリスト教の団体にFOSSへの興味を持ってもらおうという運動を展開してきたライターのMacro Fioretti氏も、FOSSコミュニティが孤立していることを認めている。だが、FOSSコミュニティに対する彼の見解は、Poole氏やBrown氏よりもずっと厳しい。自らの活動について書いた記事に寄せられた反応を見て、Fioretti氏は「私があたった団体の多くは、まったく取り合わないか意見に賛同してくれるかのどちらかだったが、FOSS組織からの反応の80%は否定的なだけではなく憎悪や偏見に満ちていた」と述べている。また、そうした反応の大半は、スカウト活動の関係者やキリスト教の信者にFOSSの活動が乗っ取られるという不安や、そうした団体は偽善者か人種差別論者だという非難につながるものだったという。「寛容で伝統にとらわれず公平で自由を愛することを誇りとしている割に、FOSSコミュニティには偏見を持った人々や非常に心の狭い人々が少なからずいる」とFioretti氏は結論づけている。

Brown氏は、こうした偏狭さゆえにDefective By DesignのメッセージがFOSSコミュニティ内部でしか受け入れられないのだと述べている。Brown氏自身はプログラマではないが、FSFの常務理事として、多大な時間をかけてFOSSの魅力を広める方法を模索してきた。彼の出した結論は、ソフトウェアのことより倫理や道徳についての議論が必要である、というものだ。

Brown氏はFOSSをリサイクルになぞらえて「リサイクルとはどういうことだろうか。リサイクルは、ごみを処理するための最も経済的な方法だろうか。それとも、環境を守るための方法なのだろうか」と問いかける。その答えに関連して、リサイクルが普及したのはごみ処理の詳細ではなく社会的責任について議論したからであり、FOSSコミュニティも同様のアプローチをとる必要がある、と彼は述べている。

社会活動家ら側の問題

同時に、活動家たちの側にも独特の偏狭さが存在する。スカウト活動関係者やキリスト教信者に話を持ちかける場合は、「議論を始めること」が大きな問題だった、とFioretti氏は語る。そうした人々からは、そもそも私の話をどうして聞く必要があるのかを必死に理解しようとする様子がありありと伺えた。彼らは私の主張に反対していたわけではない。ただ、想定されている主題が理解できなかったのだ。掲げられた組織の使命と無関係に思えるものについて、方針を定めて押しつけることに誰が多大な労力を費やすだろうか。これは、すべての教会やスカウト組織に対して最低でも2本は柄の付いたねじ回しを購入しておくように要求するのと同じで、本質的に見当違いなことだ」。そうした活動家たちが平和主義と環境保護との関連性を活動の理由として見出したからといって、彼らがすぐに既存の信念と新しい概念との関係を見つけ出せるとは限らない。

Brown氏もまた、テクノロジに疎遠なことが原因と考えられる同様の経験をしている。フリーソフトウェアに関心を持ってもらうために活動家向けのメディアに働きかけを行ったときのことを、彼は次のように語る。「彼らはフリーソフトウェアの考え方を聞いてとても困惑していた。ソフトウェアのことはわからない、というのが大きな理由だった。彼らは技術者ではないし、テクノロジに対して大きな不安を感じてもいる。調査したり意見を持ったりするのが難しいテーマだと思っているので、彼らは実際にテクノロジを避けている。実は、ただ理解していないだけなのだ」。こうした経験を通じてBrown氏は、活動家たちがFOSSに好意的な反応を示していたら、少なくとも倫理的なレベルではFOSS関係者も同じ態度をとったことだろう、と述べている。現在Brown氏はこうした新たなアプローチを通じて活動家たちのコミュニティに接触するために、FSFによるキャンペーンを企画している。

考えられる解決策

こうした組織間のつながりの欠如は、両コミュニティのメンバーが日常的な関心事以上のことにはなかなか目を向けようとしないことに起因している、とPoole氏は示唆する。CivicActionsでの取り組みを踏まえて、彼は考えられる解決策を提示している。

CivicActionsのメンバーは離れた場所で活動を行っているため、Poole氏が「バリュー・リミックス(value remix)」と呼ぶ、年に数回の会合で顔を合わせることになっている。このミーティングで、メンバーたちは自らが大切にしている価値観を書き記し、それについてグループで議論を行なう。「その結果、非常に現実的なレベルで我々を突き動かしているものが何なのか、本当にわかるようになってきた。我々の独創性の根底にあるもの、我々の情熱、そして我々の仕事を連携させる過程を通じて、最終的に我々は技術的な専門用語を口にしない人々との歩み寄りを果たし、対話できるようになる。そうやってCivicActionsの技術者たちは、普通であれば親密な対話や付き合い方ができないはずの人々とも非常に親しくなっている」。つまり、普段の仕事よりも抽象度の高いレベルに移行することで、CivicActionsのメンバーたちは共通の話題を見つけているのだ。

CivicActionsではこれと同じ方法でクライアントに接している、とPoole氏は補足する。CivicActionsのあるクライアントが死刑執行への反対運動を実施していることに触れ、Poole氏は、FOSSと社会的活動はいずれも突き詰めれば「尊厳と自由」に関わっているのだと語る。「私が言いたいのは、他の誰かの命を奪う権利など誰にもない、ということだ。それに、私が作り上げたソフトウェアを私自身から奪う権利が誰にあるだろうか。私の子供にミキシングはよくないと言う権利が誰にあるというのか。我々の中には、自らがその存在を信じ、基本的にはすべての面で整合のとれたある種の価値観が存在するのだが、日々の活動のもとではその整合性について話し合う機会がないのだ」。CivicActionsがクライアントとの間に築いているのと同様の関係をFOSSコミュニティのメンバーが社会的活動家との間に築き上げることができれば、FOSSコミュニティと社会的活動家の団体は、結局、自分たちが同じ価値観を支持していることに気付くだろう、と彼は述べている。

FOSSの訴求力を高めるどのような試みであっても、共通の価値観を持つ人々に働きかけるのが道理である。さらに、Brown氏が指摘するように、たとえ1つでも社会的活動団体からの支持が得られれば、そうした団体の大半からも容易に支持が得られるはずだ。「ある団体は子供たちの貧困に反対しているかもしれないし、別の団体はリサイクルを進めているかもしれない。しかし、こうした団体に加わっている人々はほとんど、また別の活動へと移行させることができる」。事実、多くの場合、彼らは活動の場を次々に変えていく。どんな問題に注目しているにせよ、活動家たちは他の問題に関しても支持を表明することが多い。彼らは、そうした問題の背後にある価値観の間に直接的な関連性を見ているからだ。もしそういった価値観の1つになることができれば、FOSSは急速に普及していくはずである。

Bruce Byfield氏はセミナーのデザイナ兼インストラクタで、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリストでもある。

NewsForge.com 原文