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与えるべきか否か:FOSSにおける報酬のトレードオフ

2007年03月07日 10:50 Bruce-Byfield(2007年3月2日(金))
フリーおよびオープンソースソフトウェア(FOSS)プロジェクトが開発者のための報酬制度を導入しようとするとき、いったい何が起こるのだろうか。今なおFOSSは概して有志の活動に基づいているため、そうした制度によって報酬を受け取る者とそうでない者の双方の意欲が低下する可能性が大いに憂慮される。

しかし、報酬の仕組みとFOSSの精神が相互にどのような影響を与え合うかに注目するコミュニティの主導者たちによれば、状況はもっと複雑だという。こうした専門家たちは、報奨金、現物支給、助成金、仕事の提供という主要な4つの報酬形態を明確に区別し、実際に何が起こるかはこれらの報酬形態と関与する個人に依存すると述べている。

もちろん、報酬制度はFOSSコミュニティにとっても目新しいものではない。IBM、Novell、Red Hat、Sun Microsystemsといった企業では、何年も前からFOSSに取り組む開発者を雇っている。しかし、FOSSにおける報酬制度が最近改めて注目されているのは、Debianコミュニティ内部でDunc-Tankプロジェクトへの反対の動きがあったためである。Debianの次期リリースの開発を急ぐために2人のDebianリリースマネージャにそれぞれ1ヶ月分の報酬の支払いを提案したことで、Dunc-TankはFOSS業界で大きな話題を呼んだ。激しい議論、パロディ・サイトの登場、DebianプロジェクトリーダーAnthony Towns氏に対する罷免決議案の提起(この決議案は結局は否決された。ちなみにTowns氏はDunc-Tankのメンバーでもある)など、さまざまな反対の動きがあったにもかかわらず、この報酬制度の案は成立に向けて前進を見せた。

DebianコミュニティとDunc-Tankとの議論はまだ続いており、それぞれの側の主張は、より広範囲に及ぶFOSSコミュニティにとっても、興味深い内容といえる。Dunc-Tankの支持者にとって、この問題は単純明快である。過剰にならない範囲で妥当な額の報酬を提供すれば、Debianコミュニティの選ばれたメンバーたちは自らのFOSS活動にフルタイムで専念できるというわけだ。しかし、Dunc-Tankの反対者には、こうした報酬が不平等なものに思える。例えば、Debian開発者Joey Schultze氏は、Dunc-Tankによって「多くの関係者の意欲が奪われた」と言う。また、報酬の支払いによって「自己決断および自発性の意識」を有志たちが失い、その結果「ほかの人々の力になりたいから、あるいは楽しいから」という理由では参加しなくなる点を示唆しているように見える、GNOMEのLuis Villa氏による理論的な調査結果に言及するDebian開発者もいる。

確かにこの議論は注目を浴びたが、問題は、現実指向の組織であるにもかかわらずDunc-Tankの目標が曖昧なため、支持と反対のどちら側に関する議論も理論的になりがちなことだ。一方、FOSSプロジェクトにおける報酬をもっと広い視野から検討する人々は、この問題をもっと複雑で状況依存性の高いものと捉えている。

報奨金

最もよく話題に上る報酬形態の1つが報奨金(bounty)、つまり特定のプログラミング作業に対して支払われる金銭的報酬である。ほとんどの場合、規模が小さくて内容が明確な作業に対する報奨金の相場は、わずか数百ドル程度でしかない。

Linux.comが話を聞いたプロジェクトのリーダーたちは、皆一様に報奨金について強く警戒を促していた。報奨金に反対する明快な根拠を示した者こそいなかったが、注意が必要なことは全員が経験的に学んでいた。大体において、彼らの主張はDunc-Tankの反対派による意見と同じだった。Mozilla Foundationの常任理事Frank Hecker氏は、ボランティア精神に真っ向から反するものでありながら人々を動機付けるほどの金額でないことが報奨金の問題だと示唆する。特に、何らかの開発の見返りとして金銭を受け取る場合は、その開発行為が「自発的な活動ではなく、単なる仕事になってしまう」とHecker氏は言う。要するに、熱中や没頭の感覚から何かを生みだす趣味ではなく義務になってしまう危険があるわけだ。

Fedora Boardの議長Max Spevack氏もこうした考えに同意し、「プロジェクトの自己完結した一部分だけを取り上げてその価値を決めることには何やら嫌悪感を覚える」と付け加えている。多くの場合、そうするには責任者の判断が必要になるが、このことによってもプロジェクトの開発活動がごく普通の会社の業務のようになってしまう。

そうした理由から、Hecker氏はあらゆる形の報酬のなかでも「報奨金の支払いは最も成功の見込みが薄い」と主張する。

このHecker氏の結論は、Democracy Playerの開発者によってごく短い期間だけ運営されていた今は亡きBounty Countryサイトの事例によっても裏付けられているように見える。各プロジェクトが報奨金を支払うことができるサイトとして企画されたBounty Countryには、ほとんど投稿が集まらなかった。Democracy Playerそのものは辛くも報奨金で成功した一例を築き上げたが、その他いくつかの活動は決して完遂されなかった。Democracy Playerの開発者Nicolas Reville氏には、ニュースサイトの一部または特定のプロジェクトの範囲内であればこのサイトはもっと成功していたかもしれない、と語る。だが、こうした取り組みがあまり成功していないのは、ほかも同じだ。

関連はあるもののそれほど知られていない報酬形態として、開発者が自分のやりたい仕事に対してスポンサーを探し出すという逆報奨金(anti-bounty)がある。Drupalコミュニティで少なくとも1件の逆報奨金を成立させたBryghtのBoris Mann氏によると、逆報奨金では、通常の報奨金に伴う多くの問題を回避できるという。逆報奨金の投稿は開発者によって行われるため、対象範囲、要件、費用がより現実的なものになる傾向がある、とMann氏は語る。もっと重要な点として、開発者は自らが逆報奨金に関する投稿を行ったプロジェクトにすでに関心を寄せているため、報奨金の存在によってプロジェクト内の意欲や士気が下がる恐れはあまりなく、プロジェクトの完了に際して通常の報奨金よりも高い額が得られることが多いことをMann氏は挙げている。しかし、この制度は、はっきりとした結論を導けるほどには広まっていないようだ。

現物支給

2番目の報酬制度として現物支給(payment in kind)がある。これには、会議に出席するための旅費やハードウェアなど、主だった貢献者の活動を支援するためのプロジェクトからの贈与が該当する。

大規模なFOSSプロジェクトのリーダーたちは、報奨金に対しては慎重な態度を見せていたが、現物支給のほうは熱烈に支持しているようだ。この違いは、誰かに500ドルのハードディスクドライブを買い与えるのと同額の現金を渡すのとの違いだ、とHeller氏は言う。「贈り物のようなものだ。誕生日プレゼントに実際に使える何かではなく現金を贈った場合、普通はあまり気持ちが伝わらない」。FOSSプロジェクトの場合、現物支給は、誰かを特別に選び出し、その人物がもたらした成果を賞賛するとともにさらなる貢献を引き出す方法でもある。つまり、現物支給はFOSSの文化に適合しており、その効果は現金では得られない。

Spevack氏は、FedoraではFUDconのような会議への参加費用を貢献者に支給することが多いと説明する。「これは比較的賢明な投資の方法だろう。なぜなら、コミュニティの構築とメンバーの援助が同時に行えるからだ。プロジェクトにとってもお金を受け取る側にとっても、ただ単に‘これは謝礼だ。君の協力には感謝している’と言って現金を渡すよりもずっとWin-Winに近い効果が得られるように思える」

現物支給には受け取れなかった人々の間に妬みや恨みを残す危険がなくもないが、Spevack氏は、大部分のFOSSプロジェクトに広まっている実力主義を考慮する限り、その可能性はまずないだろう、と語る。「‘リーダーは誰か’という質問をコミュニティのどのメンバーにしても、きっと同じ名前が返ってくるだろう。だから、反感や敵意が生まれる余地はないのだ」

同様に重要な点として、現物支給は貢献の重要性を認める褒賞であるため、特にそれが会議への参加費用負担という形をとる場合には、雇用関係へと発展することは一切ない。Spevack氏は、最近のFUDconについて触れ、プロジェクトから参加費用を与えられた人々が仲間たちと直接顔を合わせ言葉を交わす体験をすることで「活力を得るとともに意欲を高め」、「多くの優れた成果」が会議で得られた、と話している。

助成金と仕事の提供

Spevack氏は、助成金(grant)や仕事の提供(employment)といったほかのアプローチを単に現物支給を発展させたものと捉えている。特にFedoraでの活動に関わる仕事に対してRed Hatが人材を募集する場合は「Fedoraコミュニティで活動していた人物でその人数枠を埋めることになる。私にとっては、多くの理由からこれが完全に理に適ったやり方だ。彼らはすでにコミュニティに参加しているので、無理をして調子を合わせる必要がない。また、この方法は、コミュニティのメンバーの働きを我々が評価していることを示すことにもなる。FUDconへの参加に必要なチケットをメンバーに買い与えるといった方法は、この方法を縮小したものだ」

Hecker氏の指摘によると、助成金や仕事の提供は、ボランティアの貢献に対する報酬になるほか、見過ごされている領域での活動を奨励する方法にもなりうるという。例えば、Mozilla FoundationではFirefoxとThunderbirdへのアクセシビリティ機能の導入を奨励するために助成金を支給している。

「自らが障害者でない限り、普通はアクセシビリティの問題について深く考えることはないだろう。そのため、この領域には自発的に活動してくれる貢献者が少ない。最終的に我々が目指すのは、すでにMozillaに関与している貢献者のグループをどうにか形成し、そのグループに対して助成金を支払うことでグループの各員にアクセシビリティ機能への関心を持ってもらうことだ」。少なくとも1つか2つの事例では、短期的に助成金を受けてアクセシビリティ機能に取り組むことで、ボランティアたちは助成期間の終了後もその作業を続けようという気になっている。Hecker氏は、助成金について「そうでもしなければ興味を持たないような作業に関心を向けさせるとともに、見返りを得ているという理由から、その作業に納得して取り組んでもらえる」と語る。

報酬形態の選定

FOSSプロジェクトへの報酬制度の導入にあたっての鍵は、その状況を考慮することだと専門家たちは口を揃えている。Googleが資金提供の要求を受け入れるときのことについて、Googleのオープンソースプログラム・マネージャChris Dibona氏は次のように語る。「我々の受け答えの内容はいつも同じだ。まずは、その資金からどんな良い結果が得られるのかを尋ね、次に、その資金がどのようにプロジェクトに役立ち、提案者がなぜその計画の実行メンバーの1人として参加するのかを説明してもらう」

だが、答えは1つではない。どんなプロジェクトでも、お金が本当に役立つのかを考えなければならない」

Hecker氏にとって、重要なのは個々のメンバーの動機付けである。彼はほかのプロジェクトに「バグ修正の見返りとしてお金を使わないよう」にと ― こうした報奨金はよく見かける ― 助言しながらも、何が適切な報酬形態かは受け取る側の好みにも依存するとも述べている。Mozilla Foundationを例にとり、Hecker氏は次のように語る。「Mozillaでボランティアとして活動する多くの人々は、ボランティアであるがゆえにより一層Mozillaが好きなのだと意識的に思い込んでいる。彼らはボランティアとして活動への意欲を感じるのであって、常勤の従業員としては必ずしも意欲的になれるとは限らない」。そうした献身的なボランティアに何らかの報酬を与える場合は、現物支給が最も適切な選択肢となる可能性が高い。よりキャリア指向の高い人々には、おそらく助成金または仕事の提供のほうが適しているだろう。

また、Heller氏は次のように語る。「金銭が絡むとオープンソースプロジェクトは自然の成り行きとして衰退に向かうという考え方は、事実とは異なる。ある種のスキームは意欲を失わせる可能性があるが、オープンソースプロジェクトに報酬を持ち込むことで問題が起こるという話が一般的に当てはまるとは思わない。すべてはその扱い方と体制次第だ」

Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager's Journalに定期的に寄稿しているコンピュータジャーナリスト。

NewsForge.com 原文

最終更新:2007年07月01日 19:05