FSFE、新設のFreedom Task Forceによりコミュニティを支援

米国ではFSF(フリーソフトウェア財団)が、唱道キャンペーンやGPL(GNU一般公衆利用許諾契約書)の次期バージョンについての協議過程などを通してコミュニティとの接触を保ってきた。それに対して欧州ではFSFE(欧州フリーソフトウェア財団)によってFTF(Freedom Task Force)と呼ばれる組織が設立され、FTFがコミュニティ支援の役割の多くを担っている。FTFはまだ比較的新しい組織だが、著作権問題に対する独特なアプローチによってヨーロッパにおけるフリーソフトウェアの教育やライセンス準拠といった分野ですでに実績を上げ始めている。

FSFE理事長のGeorg Greve氏によると、FSFEは2004年の時点ですでに積極的なコミュニティ支援活動の構想を打ち出していたのだという。そしてさらに、その後すぐのFSFEの総会において、そのようなプログラムの実現を優先度の高い事項とすることも決定していたのだという。しかし実際にはFTFは2006年11月になってようやく設立された。設立が遅れた大きな理由の一つは、Stichting Nlnetから30,000ユーロの助成金を得ることができたのがその時期であったためだという。

Greve氏によると、FTFのコンセプトには当初より「技術の専門家と法律の専門家の両方を集め、問題に応じてその都度、最高の専門家から成るチームを柔軟に編成し、それぞれの専門的な見地を持ち寄り協力して問題解決に取り組む」ということが盛り込まれていたという。

FTFを統率しているのは、Shane M. Coughlan氏だ。Coughlan氏は長年ボランティアとして活動しFSFE Fellowshipメンバーにもなっている人物で、2006年10月にまとめ役として抜擢され正式に雇用された。Coughlan氏によると「FTFには、10人の法律専門家から成るネットワークがあり、そのうち5人は現役の弁護士です。また8人の技術専門家から成るネットワークもあります。またボランティアのためのメーリングリストも運営しています」とのことだ。FTFの活動に様々な面から協力している人々の中には、ベルリンにあるInstitute for Legal Issues of Free and Open Source Software(FOSS法律問題研究所)のTill Jaeger氏や、アムステルダム大学の法律学教授であるLucie Guibault氏や、ミラノ州立大学の法律学教授のCarlo Piana氏などがいる。

FTFの主な目的の一つは、フリーソフトウェア全般、特にライセンス問題についての教育だ。FTFでは個人やフリーソフトウェアプロジェクトに対しては無料でコンサルティングを提供している。また企業に対しても(FTFのウェブページの表現によると)「格安」でコンサルティングを提供している。さらにFTFではトレーニングを提供する計画もあるが、この試みは現在まだ発展途上の段階であり、ウェブサイト上にも詳しい情報はない。しかし同ウェブサイトでは、意図せずしてGPLに違反していないかということを確認したいベンダとユーザの両方に向け、チェックリストが提供されている。

FTFはフリーソフトウェアについての教育に加え、ライセンス準拠を促進することについてもgpl-violations.orgのHarald Welte氏と協力して取り組んでいる。この分野ではFTFは米国でのFSFのCompliance Labが確立したやり方に従い、Coughlan氏の言葉を借りると、可能である場合にはできるだけ「教育的な観点を考慮しながら問題を解決し、フリーソフトウェアにとっての長期的な利益につながるよう、オープンで建設的な対話」を行なうようにしているとのことだ。つまり言い換えると、違反のすべてを訴訟を前提に取り扱うのではなく、むしろ違反者が準拠する気になるよう違反者に手を差し伸べ、違反者と一緒になって問題解決に取り組むようにしているとのことだ。

Greve氏によると「現在行なわれている違反の多くは、悪意からではなく無知から来るものであるということを私たちは理解しています。ですから教育活動によってそのような無知をなくすことに取り組んでいます。またそれと同時に、違反者とは事を荒立てることなく穏やかに問題解決のために協力し合っています」とのことだ。

これまでのFTFの活動で最も注目に値すべき活動はフリーソフトウェアプロジェクトのための「信託ライセンス業務」に関してだ。先の記事翻訳記事)でも説明したように、FTFはプロジェクトに対してFSFEへ著作権を譲渡することを奨励している。この業務は「プロジェクトの持つ潜在的な可能性を十分に発揮することに開発者が集中できるように、法律面を整理統合して管理する」手段であるとウェブサイトで説明されており、特に著作者人格権を認める著作権管轄区域において、開発者が複数であることに起因して発生する可能性のある著作権問題を単純化するという利点がある。また権利を委譲することによって、長期的には(Linuxカーネルのライセンスを変更することができないという広く知られたケースのように)開発者の死亡や連絡がつかないことなどによって生まれる問題も防止されるはずだ。さらにGreve氏によるとこのような方法でプロジェクトを整理統合することにより、プロジェクトが法的に保守され続けているという法的な安心感をより確実にサードパーティに対して与えることもできる」ことになり、したがってサードパーティによるフリーソフトウェアの使用を助長することになるのだという。

なおFTFは、プロジェクトがFSFE以外の組織や個人へ著作権を譲渡することを希望する場合についても同様に、その方法に関する助言を提供するとしている。

そのような著作権の整理統合を支援するために、FTFはFLA(Fiduciary License Agreement、信託ライセンス契約)をリリースした。ただ、前述の記事の中でも触れたように、FSF顧問弁護士のEben Moglen氏はFLAを「すべてのプロジェクトにとってふさわしい方法」や「すべての著作権問題に対する唯一の解決法」とみなすべきではないと警告している。それでもやはりFLAの評判が良いことは早くも実証されていて、BaculaやOpenSwarmといったプロジェクトがFSFEへ著作権をすでに譲渡している。

FTFは以上のような任務のすべてに取り組むことを計画に入れ、(Coughlan氏は慎重な言い方をしているが)期待の持てる好スタートを切ったということのようだ。「FTFはまだ若いプロジェクトです。そのためこのような短期間の内に自分たちの活動の成否を評価しようとすることはしたくはありません。しかし、やり取りしている各方面からはポジティブなフィードバックが得られているとは言えると思います。FTFには様々な組織とのコミュニケーションを行なうオープンな窓口があり、私たちが望んでいたような反応を得ています」。

目下のところCoughlan氏は、FTFがすでに関与している分野においても「やるべきことが山ほど」あると考えている。それでもFSFEの総会でやるべきであると決定された場合には、活動を他の分野にも広げる可能性を除外することはしていないという。

「FTFはヨーロッパ地域において、必要な情報を必要なときに手に入れることができるように人々を支援し、また、企業に対しても友好的な窓口を提供したいと考えています」とCoughlan氏は言う。「もし自分のプロジェクトについて相談したいという方がいれば、臆することなく是非連絡して下さい」。

Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalへ定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。

NewsForge.com 原文