ここで開催される講義や実演では“鉄のかたまり”(big iron)と揶揄される高価な超高速大型コンピュータ関係を主な対象としており、具体的にはメインフレーム用オペレーティングシステムのMVSやCICSトランザクションサーバなどを挙げられるが、この分野では最近Linuxもその勢力を伸ばしつつある。IBMは現在zSeriesメインフレームを使った業務仕様の仮想化プラットフォームにおけるLinuxの採用を積極的に推し進めているが、今回のLinuxおよびVMプログラム系セッションの参加者数は、この分野に対して高い関心が寄せられていることを裏付けている。
SHAREメンバの大半は、例年開催されるこの種のイベントのレギュラ参加者たちである。たとえばオーバービューセッションの会場では、プレゼンテータと互いの名前をファーストネームで呼び合う参加者が大多数を占めていた。いずれにせよ、これまでの人生の大半をIntelベースのPC/サーバ用ハードウェアを相手にして過ごしてきた人間(私もその1人である)にとって、IA-32インストラクションセットと一生無縁でキャリアを終えるコンピューティング分野もあるという事実は、1つの衝撃として受け止められるのではなかろうか。それがメインフレームという世界なのである。
メインフレームはアーキテクチャそのものが異なっており、そこに求められる性能も根本的に異なっている。これらのマシンでは、ストレージとアプリケーションプロセッサ間で複数のパラレルパスを介したデータ交換を専用に司るI/Oプロセッサを装備するなどして、フルキャパシティ間際での24時間稼働をすることが前提の設計がなされているのだ。そしてある演者が触れていたように、IntelベースのWebサーバではCPU負荷が常時20%に達した段階で、その担当者は負荷分散をさせるために他のサーバを用意するものだが、メインフレーム業界の人間に言わせれば、そのような運用体制は予算とハードの無駄遣いでしかなく、メインフレームであれば80%から90%の負荷で連続運転するなどは、ごく普通の状況でしかない。
そしてメインフレームの場合はシステムを停止させることは基本的に存在しないが、それは停止させる必要がないためである(当初zSeriesの「z」は「zero downtime」=「ダウンタイムがゼロ」の「z」を示すものと説明されていたが、IBMお抱え弁護士からの横槍が入ったため、セールススタッフは「near zero downtime」=「ダウンタイムがほとんどゼロ」の意味であると言わされるようになっている)。zSeriesメインフレームは、IBMのS/390アーキテクチャをベースに作られた最新鋭マシンであり、その特長の1つが、z/OS、z/VSE(Virtual Storage Extended)、z/TPF(Transaction Processing Facility)などの複数のオペレーティングシステムを実行できる点である。
zSeriesハードウェア用のLinuxソリューションとしては、現在z/VMと呼ばれる仮想マシンハイパーバイザ(hypervisor)が存在し、これを利用することで複数の仮想サーバをゲストOS群として実行することができる。IBMはLinuxカーネルのzSeriesアーキテクチャへの移植を1998年に行っており、実際にこのカーネルソースをダウンロードするとamd64やpowerpcなどのアーキテクチャと並んで、s390とラベルされたzSeries専用コードが同梱されているのが分かる。ゲストOSとしてIBMがオフィシャルにサポートしているzSeries用ディストリビューションは、NovellのSUSE Linux EnterpriseおよびRed HatのRed Hat Enterprise Linuxの2つである。
zSeries上でLinuxを運用するメリット
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| IBMのJim Elliott氏とSystem zメインフレーム |
この月曜日(8/13)にIBM CanadaのJim Elliott氏が行った講演「Linux on System z: A Strategic View」ではこの分野に関係する参考資料および、z/VMを介してLinuxを使用する場合の計画から実装に至るアウトラインが紹介されていた。Elliott氏の語るところではデータセンタを増築する場合の問題として、ラック単位でサーバを追加して“スケールアウト”させるか、仮想化した多数のイメージを単一のメインフレーム上で運用させる“スケールアップ”をさせるかという選択があるとのことだ。
メインフレームの特長であるセキュリティと可用性の高さは、金融業界における長年の使用で培われた成果であるが、そこに付け加える形でElliott氏が強調していたのは、従来型のサーバファームよりもz/VMを介してLinuxを運用する方がコスト的に有利という点である。仮想化した複数のLinuxイメージを単一のメインフレーム上で運用する方式は、ラック搭載サーバ群と比べて、スペース、電力、冷却面において遥かに優れている他、管理業務を一元化できるといったメリットがあり、またユーザ数ではなくプロセス数での課金体制が取られているOracleなどのデータセンタ用アプリケーションに関してはソフトウェアライセンスを節約できることにもなる。
こうした主張を自ら実証しようとしているのが、他ならぬIBM自身である。8月1日に同社から出された“Big Green”構想のアナウンスでは、現在所有する3,900台のAIXサーバを総勢30台以下のzSeriesメインフレームに置き換え、z/VMを介してLinuxを運用させる計画が進められているとのことだ。こうしたメインフレーム群への置き換えでは、消費電力にして80%、床面積にして85%の節約が見込めるとされている。
Elliott氏は月曜日に行われた別の講演で、Linuxとオープンソースに関するコンセプトを紹介している。その内容はオープンソースの支援者にとっては聞き慣れたものばかりであったが、私の興味を引いたのは、オープンソース系プロジェクトに対するIBMの関わり具合を示した数値である。Elliott氏の語るところでは、1998年当時に同社のプログラマでオープンソース系コードにフルタイムで携わっていた人員は9名に過ぎなかったが、現在その数は1,000以上に増加しており、総計150以上のプロジェクトに関与しているとのことだ。実際IBMこそが、Apacheおよび(驚くべきことに)Javaの開発に協力をしている最大手の企業ということになる。IBMは、社内のオープンソース系プロジェクトの開発と管理を一元化するための“オープンソースバザー”サイトを独自に運用しており、これをElliott氏は、社内版SourceForge.netとして機能していると説明していた。
