フリーソフトウェア、ハリウッドへ行く

 米脚本家組合(WGA)のストが4ヶ月めに突入しようとするなか、その大きな問題の一つ――オンライン配給からの利益の分配――の解決を目指して制作と配給の新たな方法を模索する、新しいプロダクション会社がいくつか生まれている。そのような新会社の中に、Hollywood DisruptedやFounders Media Groupなどと並んで、Virtual Artistsがある。Virtual Artistsの目的は、フリーソフトウェア開発者とハリウッドの脚本家とを引き合わせて実験を行なうことだ。

 Virtual Artistsは、FSF(フリーソフトウェア財団)のディレクターであるHenry Poole氏が12月初め頃にロサンゼルスで、ある結婚式に出席したことがきっかけとなって誕生した。結婚式のパーティはPoole氏と仕事上の付き合いのあるBrad Burkhart氏の自宅で開かれていて、Poole氏はそこで「WGAの理事会で2番目に若く、今回のストの交渉委員会のメンバーでもある」Aaron Mendelsohn氏と話をする機会があった。そしてPoole氏がオンライン配給の新たな方法について話したところMendelsohn氏が興味を持ち、脚本家たちにその話をしてくれないかとPoole氏を誘ったのだという。

 Poole氏の説明によるとさらにその2、3週間後、ApacheプロジェクトやCollabnetでも知られるBrian Behlendorf氏がサンフランシスコの自宅で開いた同じような集まりに「フリーソフトウェアコミュニティの人々と、オンラインコミュニティの構築方法に詳しい人々とが何人かずつ参加した。この時点で、破壊的テクノロジーについての議論が始まった」とのことだ。

 この議論からVirtual Artistsが生まれた。Poole氏によるとVirtual Artistsには次のような4つの目的があるという。「コンピュータ/テレビ/携帯端末経由でメディアを配信する配給システム、共同作業用ソフトウェア、アーティストと視聴者とが直接的な関係を結ぶことを実現するコミュニティ構築用ソフトウェア、従来の方法で制作される素材の制作過程の手助け」。

 Poole氏は次のように述べた。「われわれは、脚本家とフリーソフトウェア開発者とその他の新たな業界関係者とが協力し合えるような場所を築き上げたいと考えている。われわれが特に構築したいと思っているのは、コードを書く人とコンテンツを書く人の協力関係だ」。

 Virtual Artistsに関わっているフリーソフトウェアコミュニティ出身のメンバーとして、Poole氏は自分自身とBehlendorf氏以外の名前を挙げることは控えた。ただしBehlendorf氏の自宅での集まりにはMiroプロジェクトのメンバーが参加していたとのことだ。

 一方Virtual Artistsに関わる映画/テレビ脚本家のメンバーは、Mendelsohn氏によるとハリウッドでも「第一級」の人々だ。Mendelsohn氏の他には、映画脚本家としてアカデミー賞受賞脚本家のRon Bass氏(「レインマン」、「ジョイ・ラック・クラブ」など)、Susannah Grant氏(「エリン・ブロコビッチ」、「ポカホンタス」など)、Terry George氏(「ホテル・ルワンダ」など)、またテレビ脚本家としてNeal Baer氏(「Law&Order」など)、Tom Fontana氏(「Homicide」、「Oz」など)、トニー賞受賞脚本家Warren Leight氏(「Law&Order: Criminal Intent」など)などが含まれているとのことだ。

 Poole氏は次のように述べた。「誰もが、Virtual Artistsのようなことを脚本家たちに売り込むのは困難だろうと考えていた。ところが実際には非常に簡単だった。脚本家たちは今回の試みに非常に興奮している。彼らにとっては雇われて働くという形態が日常的になっていて通常は所有権などまったくないのだが、例えばクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを使用した場合には自分の作品を所有し続けることができるようになる」。

 そのためVirtual Artistsが脚本家たちから元手資本として20万ドルを集めるのに苦労はなかった。それに加えてPoole氏によると「さらに、別の人々――従来のコンテンツ配給会社など――とも現在、3,000万ドル規模の投資について話し合っている最中だ」とのことだ。ただし「とは言っても彼らも今すぐに今までのビジネスをやめるつもりはないようだ」と付け加えた。

 テレビ/映画業界の当事者からの反応は上記以外にはまだないが、Poole氏は「今現在は脚本家ストのために誰もが口を閉ざしている状態だ」と見ている。しかし「本当のところを言えば、われわれはむしろそのような時だからこそ従来の業界と提携することに関心があるのだが」とも述べた。

新たなモデル

 Poole氏は、Virtual Artistsが実験的な試みになるだろうということを隠そうとはしない。「この先、非常に多くのことを学んでいく必要があるだろう。われわれがまだ知らないことが山ほどあるはずだ」。例えば、Poole氏はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの唱道者でもあるのだが、どのライセンスを使うことになるのかについてはまだ見当もつかないという。また、既存の経路で配布されている作品のためにはより従来型のライセンス方法が必要となるかもしれないとの考えも示した。

 しかしVirtual Artistsが検討している類いの実験の一例としてPoole氏は、Brave New FilmsのRobert Greenwald氏が行なっていることを挙げた。Greenwald氏は自身の作品をクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを使って配布している。Greenwald氏は、ウォルマートについてのドキュメンタリー「The High Cost of Low Price」を制作した後、全米各地の個人宅で上映して、関心を寄せた視聴者のリストを作成した。そして次作「Iraq for Sale: The War Profiteers」を制作することになった時に、そのリストに載っている人々に電子メールを送ったところ、この新作を制作するために十分な額である25万ドルをたった10日のうちに調達することができたのだという。

 Poole氏に言わせればそれとは対照的にGoogleは、YouTubeやGoogle Videoで「今のところそれほどの実験を行なっていない」のだという。Googleはビデオの閲覧者数を記録している。また少なくとも可能性としては、閲覧者が誰なのかも把握している可能性もある。しかし「Googleは、そのようなコア資産を制作者とあまり共有しようとしていない」。Googleにその気があれば、そのような情報をメジャーな作品の新たな配給経路となるために利用することができるはずだが、情報を抱え込んで外には出さないでいるため、アーティストと視聴者とが直接的にやり取りし合うことを実現するのではなく、実は「その二者の間に入り込んだ映画会社と変わらない」のだという。

 Poole氏は次のように述べた。「われわれがやろうと考えている革新的なことというのは、共有するということだ。そしてアーティストたちが、自分の視聴者が誰であるのかを知ることができて、他人への配慮やプライバシーと矛盾しないような環境の中で権利と能力とツールと知識を持つことができるようなシステムを用意することだ」。

フリーソフトウェアとのつながり

 Virtual Artistsはアーティストたちが自らの作品を自分で管理することを手助けするが、それと同時にフリーソフトウェアプロジェクトのパートナーにもなって開発の手助けをするということもPoole氏は構想している。

 Poole氏は次のように述べた。「今現在(将来的な)配給システムで利用可能なコンポーネントが非常に多くの人々の手によって構築されていて、彼らはプロジェクトを大きく育てるための適切なパートナーを探している。そのようなプロジェクトを維持するためには多額の資金が是非とも必要だ。Blowtorchなどのグループには資金が足りていない。フリーソフトウェアコミュニティを維持するためには、非常に多くのエンジニア時間を注ぎ込む必要がある」。

 Virtual Artistsがどのプロジェクトと協力するのかについては、具体的にはまだ未定だ。Poole氏によると今の時点では「各フリーソフトウェアプロジェクトのメンテナに声をかけて、プロジェクトのロードマップを知らせてもらっている段階だ。われわれが自分たちのプロジェクトを開発していく過程で、われわれが行なう必要のあることと、各プロジェクトが行なう必要のあることとの共通点を見出して、各プロジェクトがやるべきことをすることができるように経済的に支援する方法を見つけていくつもりだ」。

 しかしPoole氏は、Virtual Artistsの成功にとってフリーソフトウェアプロジェクトが不可欠であることは間違いないと考えている。「コードを通して実現できることがある。Lawrence Lessig氏が『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』で述べているように、コードは法だ。視聴者との関係を築くための適切なワークフローを開発することと、金銭的な利益を上げるための適切な方法を見つけることによって、われわれがルールを決めることができる」。

共通の目的

 Virtual Artistsはまだ生まれたばかりだ。誰と協力するのかという問題や、実験は成功するものばかりではないという問題以外にも、今後新たな問題が生まれてくるだろうことは疑う余地がない。

 例えば参加者がすでに直面している問題の一つに、共通言語がないということがある。Poole氏は「デベロップメント」の例を挙げた。「映画業界でデベロップメントと言えば基本的に作業の初期の段階のことを指すが、ソフトウェア業界でデベロップメントと言えば制作そのもののことだ。今の時点では意味に食い違いのある言葉があるため、フリーソフトウェアとハリウッドの間で共通の言語を作る必要がある」。

 さらにPoole氏は、フリーソフトウェアコミュニティには映画業界に対する「どうしても信頼しきれないという感覚」があるとも指摘した。

 それでもPoole氏は楽観的であり、ハリウッドのアーティストとフリーソフトウェア開発者の違いは、共通点に比べればずっと小さいと考えている。

 Poole氏は次のように述べた。「肝心なことは、われわれは皆、支えとすることのできる言わば経済的な正義を求めて、大きな同じ問題に取り組んでいるということだ。大企業は常に支配しようとする。それはソフトウェア開発者に対してもアーティストに対しても同じだ。そのため両者には多くの共通点がある。われわれは、実験を恐れない非常に革新的で創造的な人々と協力して、あらゆる人が本当に共鳴することのできる方法を探していくつもりだ」。

Bruce Byfieldは、Linux.comとIT Manager’s Journalに定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。

Linux.com 原文