メンター組織に注目する
次にメンター組織に注目してみると、よく知られた団体の名前がいくつか見つかる。スポンサーであるGoogleはもちろんのこと、コンテンツサービス系ではCreative Commons、Internet Archive、イギリス国営放送の技術開発部門BBC Researchなどが参加している。また100ドルPCで有名になったOne Laptop per Child(OLPC)、ネット上での発言の自由を守る電子フロンティア財団(EFF)も連続してSummer of Codeに採択されている。
最先端の研究機関に進みたいと考えている大学生には、メンター組織の中でもNCSAやNESCentといったアメリカの国立研究所や、アメリカの次世代インターネット研究開発コンソーシアム「Internet2」やミシガン大学複雑系研究センターといった第一線の研究機関の募集に興味を持つだろう。採択された研究機関はアメリカだけに限定されず、イギリスの研究機関の連合あるOMII(Open Middleware Infrastructure Institute)も参加している。また研究機関だけでなく、オレゴン州立大学とポートランド州立大学といった教育機関も名を連ねている。両大学はオープンソース・フリーソフトウェア支援で寄付を集め、大規模な施設とカリキュラムを整備したので(過去記事「オープンソース界に多大な貢献をするオレゴン州立大のホスティングサービス」および過去記事「オレゴン州の2大学にGoogleからお返し」参照)、メンターの指導手法にも期待できる。
応用分野
専門家向けに開発された応用ソフトウェア分野でも、数多くのメンター組織が学生を募集している。専門課程に進んでいる学生は、自分の専門分野で使いこむソフトウェアを見つけることができるかもしれない。以下、目についたメンター組織をあげてみる。
- GenMAPP(バイオ情報処理)
- Swarm(複雑系シミュレーション)
- NESCent(進化系統情報学)
- OpenMRS(医療ソフトウェア)
- Globus Alliance(GRID)
- Freenet、GNUnet、Tor(P2P、日本から開発に参加するは法的リスクに注意)
- Sahana(災害情報)
- RTEMS(組込み開発)
- OpenStreetMap、OSGeo、NCSA (地理情報)
- Nmap/Umix、OpenNMS、OSVDB(セキュリティ)
- DSpace、Moodle、OLAT、Sakai、Tux4Kids (教育支援、e-learning)
- Natural User Interface Group(タッチインタフェース)
この他にもクラスタリング、CAD、インターネットメッセンジャー、モバイル、住基カード、BIOS関連など数多くのメンター組織が参加している。よくさがせば興味を引く分野がみつかるだろう。
Summer of Codeにみるオープンソース・フリーソフトウェア振興
Googleの姿勢
Summer of Code 2008 に採択されたメンター組織が増えたことで募集範囲も広がったが、この広大な範囲にGoogleが出資する意義や効果はどこにあるのだろうか。Summer of Codeの特徴を考える上で、まずSummer of Codeと夏休みのプログラミングコンテストやサマーインターンシップとの違いについて述べたい。
一般的に、企業による学生プログラミングコンテストはその企業のPRやリクルートと結びついており、自社製品の利用が必須だったり、成果の外部発表には会社の承認を要求される、といった制約がある。また応募条件も厳しい(Google本社でのサマーインターンシップではコンピュータサイエンス系の修士、博士課程に在籍することが応募条件になっている)。しかし Summer of Code では、成果公開においても募集においても制約が非常に少ない。成果の評価についてはGoogleではなく各メンター組織が行い、成果物のコードもオープンソース・フリーソフトウェアのライセンスで公開されるためにGoogleが権利を主張できない。募集条件も、コードを書けて海外送金を受け取れるならば、どの国の学生が応募してもいい(ただし留学生の場合、Googleからのお金を受け取れるビザが必要)。また18歳以上という年齢上の制約さえクリアすれば、コンピュータ科学を専攻していなくても応募できる。つまり美大生や短大生でも応募可能だし、専門学校や通信制大学に通う学生でも応募できる。
これはなかなか真似できない大胆な試みで、もしも政府が同じようなことやって結果がでなければ(たとえば国内産業への就職に結びつかなかったり、海外からの申込ばかり採択されたり、替え玉受験が判明したり等々)、税金の無駄づかいとして批判されただろう。その点でGoogleは一国の政府ができないような人材育成を民間企業のフットワークの軽さを生かしてうまくやっている。Summer of Codeでゲームや音楽プログラムが開発されても、それはGoogleの業務内容とは結びつかず、スポンサーであるGooeleに直接利益をもたらすことはない。だが、オープンソース・フリーソフトウェアを活用するGoogleにとって、コミュニティ(ソフトウェアを生みだすエコシステム)の発展は結果的にGoogleのサービスの品質に反映される(と言われている。くわしくはSummer of CodeのFAQを参照)。あるいは多くのベンチャー企業を買収するGoogleにとっては、将来のベンチャー企業人材に対する先行投資として考えることもできるだろう。Google創立者の提案からはじまったと言われるSummer of Codeは、コミュニティの力を借りて価値をつくりだし、他社が容易に真似できない規模に到達するという点でGoogleの独自性が出ているプロジェクトだと言える。
オープンソース・フリーソフトウェアを支援する手法に注目した場合、開発コミュニティを重視したGoogleの柔軟な運営姿勢も注目に値する。はじめは小規模なサイズからはじまったSummer of Codeは、毎年柔軟にシステムを変えてきた。それは Google Map、Google Code、Google Earthとの連携といったインフラ面の改善だけではない。たとえばメンター組織が発表されてから学生が応募内容を申し込むまでの時間を多く取れるようにスケジュールが変更されたが、これは参加者からの要望を反映させたものである。具体的には、GoogleはGoogle Summer of Code Mentor Summitを毎年開催し、世界各地からメンター組織・統括組織の代表を招いてフィードバックを得ている。その内容は非公開だが、招待されたメンターの感想ではテーマ設定の段階からコミュニティの声を反映させた熱心な議論が交わされたようだ。普通のスポンサーではここまでコミュニティを主体とした運営は行えないだろう。また、開始1年目にGNU Projectが「オープンソース」のプロジェクトには加担しないと表明したこともあった。するとGoogleはオープンソース・ソフトウェアという看板を"open source、free software"という表現に統一し、翌年からGNU ProjectはSummer of Codeへの参加を表明。最古参のGNU Projectの参加したことで、さらに多くのプロジェクトが参加することになった。
