統括組織・メンター組織の成長
Summer of Codeはコミュニティの構造にも変化をもたらしている。目立つ変化としては、統括組織(umbrella organization)の活躍をあげることができるだろう。一般的にオープンソース・フリーソフトウェア開発組織の多くは事務処理のリソースを持たず、海外送金をうけとったり税務署に申告したりといった手順に慣れていない。そこで開発者コミュニティの手続きの窓口や受け皿をつとめる統括組織(umbrella organization)の出番となる。たとえばMercurial(分散バージョン管理システム)などのコミュニティはSoftware Freedom Conservancyの傘下で参加しているが、これは法人化していないプロジェクトに各種サービスを提供する受け皿としてSoftware Freedom Law Centerがはじめたプログラムである(「過去記事「FOSSプロジェクトを法の庇護下に置くSoftware Freedom Law Center」参照)。他にもPerl FoundationがPerl本体のみならず数々のモジュールやCatalyst、Jifty、RTといった関連プロジェクトをまとめた窓口となっているし、研究方面ではシンギュラリティー研究所がAI(人工知能)関連のプロジェクトの窓口をつとめている。そして日本のFSIJもメンターの参加と提案とを募集している。
個々の開発コミュニティが出すアイデアリストも改善されている印象を受ける.必要とされるスキルや難易度、あるいは開発動機をつけるといった教育的な配慮を多く見かけるようになった。こうしてSummer of Codeをきっかけとしたエコシステムは毎年発展しており、今後はGoogleの傘の外でもシステムが動くかどうかが問われることになるだろう。(Googleもコミュニティが依存体質になることは望んでいないらしく、Summer of Codeが次の年も必ず開かれるとは公言しないし、2月になるまで予告も行わなかった。)
日本における課題
最後に日本における取り組みについて触れておきたい。かつて日本のオープンソース・フリーソフトウェアを担う層を調査比較したところ、欧米よりも平均年齢が高く、現役学生の割合も少ないという結果がでた(過去記事「FLOSS-JP:オープンソース/フリーソフトウェア開発者調査結果概要」参照)。おそらく現在ではコミュニティの平均年齢はさらに上昇しているのではないか。またSummer of Code 2007のGoogle Earthによる参加者表示が公開されているが、地球全体における日本周辺における参加者の存在感は少ない。これらのことから、日本周辺からの学生参加がこれから増える余地は大いにあると考えられる。
しかし、これまでは英語での申込や日本の学年暦との兼ね合いが学生参加の障壁になって、日本人メンターが登録しても海外の学生を指導することの方が多かった(コミュニケーション言語の問題は申込前に学生がメンター組織に相談・確認することが可能である)。今年はGoogleが日本語で情報交換できるディスカッションリストも設置し、FSIJも具体的なモデルスケジュールを公開している。なお、FSIJによれば事前に希望者からコンタクトがあれば、4月前半に都内でFSIJが開催する開発イベント「CodeFest Week」に参加できる場合もあるとのことである。今年の募集では学生の開発参加の障壁は確実に低くなっており、学生がオープンソース・フリーソフトウェアを自ら世界に発信する文化が促進されることを期待したい。
著者について: 山根 信二 (Shinji Yamane)はセキュリティ研究に従事しつつ、Open Tech Press に記事を寄稿している。CPSR、FSIJ会員。共著書に『Internet Ethics』(2000)、「情報社会を理解するためのキーワード20」(東浩紀『情報環境論集 東浩紀コレクションS』所収、2007)など。
過去のOpenTechPress寄稿記事: