これらの事例が物語っているのは、公共サービスの効率や総コストを改善する上でFOSSやオープン規格が独自に行える作業は、スマートカードに関する限りほとんど存在していないということだ。FOSSの擁護派がプロプライエタリ系ICTテクノロジの代替手段についてのロビー活動を行う際にこの問題を見落とすのは禁物であり、「FOSSに切り替えるだけで確実に出費を抑えられます」という論を展開するのは非常に危険なのである。実際にFOSSの採用で大幅なコスト削減が達成されるとしても、それには行政の機構と手続きの両面における認識と対応が整い、既存のソフトウェアその他のテクノロジの再利用が行われなくてはならない。例えばイタリアの場合も、行政機関用ソフトウェアをオープンソース形態で共同開発するためのオフィシャルポータルは既に設けられているのに、これらの組織で使用するソフトウェアがすべてオープンソース化されて関連サイトにて公開されるかまでは保証されていないのである。
手続きにせよシステムにせよ、法律、行政、方法論の各レベルにおいて相互運用性が確立されていないものは未だ多数残されており、現状はどのようなソフトウェアを使用ないし再利用するかの検討を開始する以前の段階に止まっている。ただし、こうした相互運用性の問題に対処する技術サポートをすべてのEU加盟国に提供することはQualipsoコンソーシアムのメンバが現在検討している問題の1つであり、その点では将来への希望がつなげるとしていいだろう。
このようにスマートカードを用いた認証システムは様々な問題を抱えているものの、その一方ではこれが1つのきっかけとなり、イタリアその他のEU諸国においてフリーソフトウェアがより広範なサポートを受ける可能性も残されているのである。それはコンピュータを使う必要性も関心も持たない人々を含めて、すべての国民はヘルスケアを始め納税や年金などの公共サービスと無関係で済ませられないはずであり、老人クラブ、教区、学校、その他各種の非営利団体も含め、これらのサービスの利用者は現在ないし将来的にスマートカードを使用することになるからだ。
こうしたシナリオを想定するとGNU/LinuxデスクトップやライブCDの基本構成に関しても、今後はカスタム型のメニューやウィンドウマネージャを装備するものよりも、スマートカードとその読取装置を標準サポートしたものが普及していくのかもしれない。
