残り1日半の講演内容を大きく分類すると、よりハイレベルな戦略的視点での見解と、より個別的なコーディング問題に特化したものとに分かれていた。前者に属す講演の1つは、Mozilla Foundationのシニア開発者として活動中のLaura Thomson氏が、クリーンで堅牢でセキュアでスケーラブルで有用な情報に満ちたコードについて語った「Writing Beautiful Code」(美しいコードの記述法)であり、これらの各属性が具体的に何を意味するかを説明していた。同じくKate Milberry氏による「From Free Software to Open Knowledge: Open Source as a Method for Progressive Social Change」(フリーソフトウェアからオープンナレッジへ:漸進的な社会変革の手法としてのオープンソース)もこの分類に属すディスカッションであり、またDarren Barefoot氏による「1100 Stacies」(1100の善行)では、Web形態で提供されている多様なツールとサービスを社会的責任を果たした上でいかに活用するかのディスカッションが行われた。
もう少し一般性の低い分類に属すものとしてはCreative CommonsのNathan Yergler氏によるCreative Commons Rights Expression Language(ccREL)についての講演があり、これは各種ライセンスの標準化を目指してCreative Commonsが進めている活動であって、可能であればFree Software FoundationやOpen Source Initiativeなどのライセンス関係団体での採用をも視野に入れているそうだ。同じくBrad Neuberg氏はGoogle Gearsの概念と構造に関する基本解説を行ったが、これについては聴衆側からも次なる目玉となりつつあるトピックの1つだとの声が聞かされた。その他Derick Rethan氏による「Test Driven Development」(テスト駆動型の開発)およびChris Hartjes氏による「Deployment is not a 4 Letter Word」(配備は禁句ではない)もこの分野に属す話題についての講演であった。
より個別的な内容について語られたプレゼンテーションに属すのは、Derick Rethan氏による「Lego blocks for PHP」(PHPにおけるレゴブロック)、Eric Promislow氏による「Scaling up with JavaScript」(JavaScriptでのスケーリングアップ)、Mike Cantelon氏による「Reusable Components in Django」(Djangoの再利用可能なコンポーネント)である。これらの講演にて実際に語られていた内容および、講演の合間にチェックした電子メールのコメントから判断する限り、本コンファレンスは様々な聴衆の嗜好をカバーする適度にバランスの取れた構成になっていたと評していいだろう。
もっとも、このようなプログラミングをテーマとした正式なトラックは本コンファレンスの一側面でしかない。いつものように廊下の随所が臨時のコンサルタント会場として利用されるのはもとより、講演で語られた内容をネタとして開催される様々な即席セッションの重要性こそが、このコンファレンスの醍醐味というものである。実際コンファレンス2日目のうち4時間もの予定が“ライトニングトーク”と呼ばれる参加者が随時参加できる簡易セッションに割り当てられており、今回はFacebookやLinkedInなどのソーシャルサイトおよびOpenSocial APIなどに関する話題で華やいでいた。また現在MozillaにてThunderbird開発を統括しているDavid Ascher氏が以前にCEOを務めていたActiveStateは、本コンファレンス開催地に前もって乗り込んだ参加者を対象とした非公式なMozDev(Mozilla Development)Campを昼過ぎに主催した他、夜には下町のアートギャラリにて社交会を臨時開催している。そしてコンファレンスを締めくくるに当たり運営側は、多数の要望に応える形で、就職希望の開発者や人材募集中の採用者たちが歓談ないし名刺交換の場に使用するホールウェイセッションを開催した。昨今はWebアプリケーションが大いにもてはやされているが、こうしたコンファレンス会場にて顔を合わせた参加者どうしが自主的にコンテンツを形成するというオープンさは何度体験してもいいものである。
今回のコンファレンスについて参加者サイドから感じられた不満としては、会場側の提供するワイヤレスサービスが不安定でそのアクセスが制限されていたことくらいである。会場スタッフ側の意識としてワイヤレス接続などは付随的なサービスに過ぎなかったのかもしれないが、参加者側は必須機能と捉えていたのであり、ここが2010年冬季オリンピックでも利用される会場となることを考えると、こうした認識のあり方は1つの凶兆と考えてもいいのではなかろうか。ただし本コンファレンスにて会場スタッフは可能な限り手を打ってくれており、彼等のねばり強い交渉と努力のおかげで、アクセス状況は2日目にてある程度の改善が成されている。
その他の点において本コンファレンスは多大な成功を収めており、2日目の朝も過ぎると既に手持ちぶさたになったスタッフが来年のコンファレンスについて話を進めていたくらいだ。こうした小規模なコンファレンスにてトップレベルの演者を招くという方式は、ゲストおよび有料参加者の双方を引き付ける運営スタイルであることは明白である。Open Web Vancouverが抱える最大の問題を敢えて指摘するとすれば、それは今回同様の素朴さと緊張感とのバランスを来年度以降も維持していく上での、参加登録者の上限に対するサジ加減の難しさであろう。
Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、Linux.com、IT Manager's Journalに定期的に寄稿している。
