IntelとWind River、車載用Linuxインフォテインメント・システムを推進

 Linuxはコンピューターにも電話機にもWi-Fi機器にもTiVoにも使われている。ならば自動車にも、というわけでもあるまいが、Intel Corp.Wind Riverが、組み込み機器業界、自動車業界と手を組み、Open Infotainment Platforms(OIP)と呼ばれるオープンかつLinuxベースかつ標準ベースかつ相互運用性のあるハードウェアとソフトウェアを用いて車載インフォテインメント(IVI)の進展を支援している。

 目的は、自動車メーカーやアフターマーケット・メーカーが消費者の求めに応じて新たなインフォテインメント製品や機能を速やかに提供できるようにすることにある。IntelのDigital Enterprise GroupのバイスプレジデントでありLow-Power Embedded Products Divisionのゼネラル・マネージャーでもあるTon Steenman氏によると、自動車業界は、今、メディア機器や情報機器の車載に向けて大きく動いているという。

 「自動車メーカーは車内でメディア機器やデジタル機器を楽しめるようにし、それをインターネットに常時接続したいと考えているようだ。自動車業界は数年かけて技術を立ち上げその後必要に応じてゆっくり変更していくという旧来の方法で取り組んできたが、成果は上がっていない。そこで、2年前から迅速に市場に出す方法について当社と協力し、OIPの定義と開発に取り組んできた」

 そうした活動の一つは、基盤となるハードウェアの標準化だ。Intelから見れば、これは同社の新しいAtomプロセッサーとモバイル・インターネット・デバイス(MID)アーキテクチャーの活用の場であり、自動車のダッシュボードや後部座席に搭載される娯楽システムへの応用ということだ。

 そうした機器にはLinuxが用いられ、完全なTCP/IPネットワーク・スタックがサポートされるだろう。インターネットへの接続にはMobile WiMaxの利用が見込まれている。また、MIDとの整合性もテーマの一つだ。Steenman氏によると、多くの人が自動車に携帯機器を持ち込むだろうという想定があるという。持ち込んだ機器と車載機器のアーキテクチャーが共通であれば、音楽や地図などのデータを携帯機器と車載機器の間で転送できるだろう。

 一方、自動車業界にとっての狙い目は「このオープン・システムの取り組みによって開発の期間とコストが劇的に短縮するだろう」(Steenman氏)という点にある。自動車の利用者はインフォテインメント機器が遅くとも6か月で更新されたり新機種が登場したりすることを期待しており、旧来の方式ではこれに十分に対応することができない。これが、自動車業界でオープンソース・システムがかくも重視される理由の一つだ。車載のハードウェアはそのままで、新たなアプリケーションを速やかに開発しハードウェアにダウンロードすることで利用者の期待に応えようというのだ。

 Wind RiverでLinux製品部門のシニアバイスプレジデント兼ゼネラル・マネージャーを務めるVincent Rerolle氏は次のように言う。「何を車載すべきかは5年前と今とでは大きく異なっている。当時は、すべてがブラック・ボックス、プロプライエタリーで、更新には2年から5年かかっていた。今、利用者が求めている車内環境はそうしたものではない。確かに、今でも燃費とブランドで自動車を買ってはいるが、最新のインフォテインメントが欲しいとも考えている。旧来の車載システムは技術革新からあまりにも閉ざされていた。自動車産業は、今、オープンソース、技術革新のスピードを必要としている」

 「したがって、我々としては、ほかがやったことを後追いするつもりはない。旧来の方法ではうまくいかないことは自動車メーカーからハッキリと聞かされている。我々の俎上にあるのは、まだ統合されていないもの、そしてソフトウェアとハードウェアのロードマップだ。これで、オープンソース・コミュニティーと独立系ソフトウェア・ベンダーのコミュニティーはアプリケーションとインタフェースに取り組むことができる」(Rerolle氏)

 それでは、どのようなアプリケーションが登場するのだろうか。ロボットのように自動車のフロントガラスをヘッドアップ・ディスプレイにするのはまだ無理だ。しかし、ロケーション対応型アプリケーションなら可能性がある。単なるGPS内蔵ではなく、内蔵されているGPSやMIDを使って、たとえば営業中の最寄りピザ店にリアルタイムにナビゲーションしてくれるようなものがまず普及するだろうとIntelとWind Riverは見ている。

 両社は、自社の開発プラットフォームを使うプロジェクトにMoblin Webサイトを利用するようプログラマーに促すことにしている。MoblinはIntelが支援するオープンソース・コミュニティー・サイトで、現在の主題はMID向けのMoblin Core Linux Stackだ。

 車載アプリケーションはアフターマーケット向けの車載機器でまず実現されるだろうと両社は言う。「量産モデルは2011年になるだろうが、アフターマーケット・メーカーの製品は今年から来年にかけて出るだろう」(Steenman氏)

 Steenman氏は、最後に、この取り組みはIntelが動かしているのではないと強調した。「OEMは以前から当社と関係がある。自動車業界の中には今も古いパラダイムにとらわれているところもあるが、大半は自動車の購入者に迅速にインフォテインメントを届けることのできる方策を求めている」。VolkswagenとBMWはすでにその方向に動いており、IntelとWind Riverによると、それはAtomハードウェア・アーキテクチャーとオープンソース・ソフトウェアとLinuxだという。

Steven J. Vaughan-Nichols 技術とそのビジネスの分野を守備範囲とするライター。PC向けオペレーティング・システムならCP/M-80と言われ、自分のコンピューターで2BSD(Second Berkeley Software Distribution)を使うのが最先端だった時代からの古参。

Linux.com 原文