Arch Linux:自作好きLinuxユーザ向けのディストリビューション

 Linuxディストリビューションにはデスクトップユーザ向けはもちろん高可用性サーバ向けのものでさえもいくつもの選択肢が存在するが、自作好きのユーザ向けのディストリビューションについてはそれほど多くの選択肢は存在しない。それでもやはり選択肢は一つではなく、Linux from Scratchを使って一からLinuxを構築することもできるし、Gentooを使って独自のパッケージセットをコンパイルすることもできる。しかし自作路線でありながらも、設定しながらLinuxの基本を学ぶことができて、文書が充実していて、軽量で、反応が速くて、依存関係を解決してくれるパッケージシステムがあるディストリビューションを使いたいなら、 Arch Linux がお勧めだ。

 最近のデスクトップLinuxディストリビューションでは設定に関するあらゆることが使いやすいメニューや自動解決を行うパッケージマネージャの背後に隠蔽されている。ベテランユーザの中にはこのことについて肥大化や資源の無駄遣いだと考える人もいるかもしれないが、システムを調整する時間の節約になるという利点があり、高帯域ネットワークや安価なハードウェアのおかげもあって人気は高い。

 Arch Linuxでは、古さと新しさとが絶妙にブレンドされている。古い時代のLinuxから受け継いだ点としては、細かい調整や変更をほどこしたカスタマイズ済のシステムを利用できるということがある。一方最近の新しいLinuxから受け継いだ点としては、依存関係を自動で解決するバイナリパッケージマネージャが存在するということがある。Arch Linuxの活発なユーザ/コントリビュータコミュニティによって実現しているのは、ユーザが完全に自分の好きなようにできて、設定のために週末をまるまる潰す必要がなく、常に最先端のFOSSを活用できるように設計されたパッケージマネージャを持つシステムだ。

Arch Linux 2008.06を使ってみる

 先月リリースされたArch Linux最新版は、従来通りのISOイメージに加えてUSBイメージとしても入手可能で、どちらも約300MBの大きさだ。USBデバイスからのブートがBIOSで可能になっていれば、ddコマンドを使ってUSBイメージをUSBメモリにコピーして、それを使ってインストールすることができる。

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Arch Linuxのインストーラ arch2_thumb.png インストール完了

 Arch Linuxにはインストール用の派手なグラフィカルインターフェースはない。さらに言えば、cfdiskユーティリティを使ってディスクのパーティション分割をコマンドラインで行う必要がある(ただし、ディスクの内容をすべて削除して4つのパーティション(/boot、swap、/、/home)に分割する「auto prepare(自動セットアップ)」というオプションがある)。とは言えArch Linux 2008.06には初心者向けインストールガイド(/arch/beginnersguide.txt)と、より詳細なインストールガイド(/arch/arch-install-guide.txt)というオンラインガイドが用意されているのでそれほど難しい作業ではない。

 パーティションの準備ができれば、次の作業はインストールしたいパッケージの選択だ。Arch Linuxでは従来のデスクトップLinuxでのインストールとは異なって、パッケージがBase(基本)とDevel(開発)の2つのカテゴリに分類されている。Base(基本)は必ずインストールされるパッケージで、カーネル、シェル、ブートローダなどが含まれる。一方Devel(開発)はインストールが任意のパッケージで、GNUツールチェーン(GCC、autoconf、automakeなど)などが含まれる。インストールの際にはこれらのパッケージカテゴリの選択の他にも、バンドルされているパッケージの全リストが表示されて、追加でインストールしたいパッケージを選ぶことができる。

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Pacmanパッケージマネージャ

 選択したパッケージカテゴリのインストールの際には、かの有名なArchのPacmanパッケージマネージャが起動する。パッケージをPacmanのキャッシュ内に保存するかどうかをインストーラがユーザに訊ねるので、そうするように答えると、新版が原因で問題が起こったり他のパッケージとの衝突が起こったりした場合に、パッケージを元の版にダウングレードすることができる。

 インストールされるパッケージの数はわずかなので、システム構成やパッケージの選択内容に関わらずパッケージのインストールには時間はあまりかからないはずだ。そしてインストールが完了しても、使いやすいインストール後のアカウント作成画面やカスタマイズされたログインマネージャはもちろん、スプラッシュ画面さえも表示されない。その代わりにいかにもArchらしく、システムとネットワーク構成に合うように確認したり調整したり変更したりする必要のある一連の設定ファイルが表示される。

 とは言ってもこの作業は実際には想像するほど難しいことではない。ArchにはBSDスタイルのinitシステムがあるので、キーボード配列、ネットワーク設定、モジュールのロード、デーモンの起動など基本的なシステム設定のすべてを/etc/rc.confという一つのファイルだけを使って管理する。さらにSystem Vのinitシステムとは異なって、全デーモンはランレベルに関わらず/etc/rc.dという一つのディレクトリの下に置かれている。また各設定ファイルは、添えられているコメントのおかげでかなり分かりやすくなっている。

 私の場合は、rc.confを変更して、デフォルトの固定IPアドレスを使用するのではなくDHCP経由でネットワークについての詳細情報を取得するようにした。またHALがリムーバブルメディアを扱うようにしたかったので、初心者向けのガイドで推奨されていた通り、/etc/fstabファイル内のCD/DVDドライブについての項目をコメントアウトした。

 ホスト名は/etc/hostsファイルの中で設定する。また許可/拒否するホストは、許可/拒否用の各ファイルの中で設定可能だ。最後に、ルートのパスワードの設定とブートローダについての設定を行えば設定は完了だ。

Archを拡張する

 Arch Linux 2008.06ではインストールが完了しても、フル装備のグラフィカルデスクトップ環境が提供されるわけではない。そうではなく提供されているのは、独自のシステムを構築するための堅固な基盤とツールのみだ。このようなアプローチの利点は、標準的なパッケージのセットから余分なものを削除する必要がある従来のディストリビューションとは対照的に、システムを一から仕立て上げることができるということだ。つまりArchでは、ディストリビューションベンダではなくユーザがパッケージの選択権を握っている。

 Archでは、ウェブサーバだけが必要な場合にはApacheとその他の必要なコンポーネントやライブラリだけをインストールして、デスクトップ関連のものは省くことができる。またコンピュータをジュークボックスとして使用したい場合には、MPlayerと、よく使われている形式のほとんどを再生することができるcodecsパッケージとを追加して、それ以外のパッケージは省くことができる。一方Archを最新デスクトップとして日常的に使用したい場合には、KDE最新版や3Dコンポジティングマネージャやお気に入りのデスクトップアプリケーションをインストールすれば良いだろう。

 この作業についてもやはり難しいことのように聞こえるかもしれないが、Pacmanのおかげで実際には難しくはない。インストールガイドでは、ALSAサウンドサーバやXサーバから人気のデスクトップ環境まであらゆるものを自分でインストールする方法が説明されている。そのため実際には何でもない作業だ。例えば「pacman -S firefox mplayer mplayer-plugin codecs flashplugin」というコマンドを実行すれば、Firefoxブラウザの最新版とそのFlashプラグイン、オーディオ/ビデオプレイヤのMplayerとそのプラグインとコーデックをインストールすることができる。Arch Linuxのリリースは段階的に発展する――つまり言い換えれば各リリースは別ブランチや別バージョンに分かれているのではなく、単に既存のリポジトリに新しいパッケージが追加されていくだけなので、全システムのアップデートも「pacman -Syu」というコマンドを実行すれば良いだけだ。

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Arch Linuxのデスクトップ(KDEmod)

 今回はCD-ROM経由とFTPミラー経由の二通りの方法で、1GBのRAMとワイヤレスでないEthernetカードを搭載した2.0GHz Core 2 Duo E4400デスクトップ上にArch Linuxをインストールした。ネットワークアダプタは適切に検出されて、DHCP経由での設定もうまく行った。またBase(基本)パッケージをインストールした後は、インストールガイドに従って基本的なXfceシステムを設定してみた。さらにその後、Arch Linux向けに最適化したモジュール型/調整版KDEであるKDEmodも試してみた。なおKDEmodはKDE 4.1ベースのunstableブランチを試した。

 Pacmanについてもっとも嬉しく感じた点は、インストールしたいものだけをインストールすることができるということだ。例えば、KDEのグラフィックスパッケージをまるまるすべてインストールしなくても、KSnapshotプログラムだけを望み通りにインストールすることができた。これによりディスク領域の節約だけでなく、肥大化知らずの電光石火の性能が実現されている。インストールしたArch Linux 2008.06では、ブートからKDEデスクトップが利用可能になるまでに20秒とかからず、またどのアプリケーションもほぼ瞬時に起動した。

まとめ

 Arch Linuxは、システム上にインストールするアプリケーションを自分で決めたいユーザ向けのディストリビューションだ。同様の目的を持つ他のディストリビューションとは異なって使いやすさが完全に犠牲になっているわけではなく、設定作業が楽になるBSDスタイルのinitスクリプトや、常に最新のシステムにアップデートするのに役立つ、依存関係を解決するパッケージマネージャがある。全体的に言ってArchは、汗だくになることなくLinuxについて学んでLinuxシステムを自分で作り上げたいユーザのための素晴らしいディストリビューションだ。

Linux.com 原文