ネットブック市場に投入されるSplashtop

 瞬間起動Linux環境SplashtopがLenovoの新型ネットブック「IdeaPad S10e」に搭載される。このまま行けば、このフォームファクタでの初のお目見えとなる。だが、このニュースは驚くに当たらない。ネットブックの超軽量性がSplashtopの瞬間起動と組み合わされるのは当然の成り行きだからだ。

 IdeaPad S10eは、CPUにAtomを採用した10.1インチの教育機関(児童・生徒・学生)向けネットブックだ。今月、構成(ストレージとオペレーティングシステム)の異なるいくつかのタイプの製品が店頭に並ぶ予定で、その中にSUSE Linux Enterprise Desktop版が含まれている。

 Lenovoは自社の製品に搭載するSplashtopを宣伝用の資料の中で「Quick Start」と呼んでいるが、これをAsusは「ExpressGate」、Hewlett-Packardは「VooDoo IOS」と呼んでおり、このような名称変更のトレンドに関してLenovoも他のハードウェアベンダーと足並みをそろえた形だ。

 Splashtopを開発したDeviceVMのマーケティング担当専務Sergei Krupenin氏に例の商標変更は会社への気遣いなのかと問うと、彼はくすくす笑った。「OEMにとってSplashtopを差別化できるかどうかは本質的なことなのさ。我々はそれをよいことだと思っている。我々が望むのは、OEM側が彼らの製品部分と調和するようなユーザーエクスペリエンスを提供できるようにすることであって、それは我々のバリュープロポジションの1つなのだ」

 DeviceVMのWebサイトにはSplashtopを搭載した39の製品が掲載されているが、Krupenin氏によれば、各メーカーで複数の製品ラインが絶えず更新されていることを考えると、この数は現実を反映していないはずだという。

 Splashtopは3月に我々が取材翻訳記事)したとき以来、進化を続けてきた。プロプライエタリなSkypeクライアントを含め、すべてのアプリケーションがアップデートされている。ブラウザはまだFirefox 2.xをベースとしているが、現在はJava(Sun JRE 1.6)を搭載している。ネットワーク型ゲームという、まったく新しいアプリ区分も導入された。また、これが一番重要なことなのかもしれないが、Splashtopインストレーションをエンドユーザーがアップデートできるようになった。以前のバージョンはメーカー側しかアップグレードできなかった。

ネットブックというフォームファクタ

 Krupenin氏は、Splashtopをネットブック市場に投入することの意義を、フォームファクタの小さな機器に強烈な弾みを与えることだと考えている。「その名前が示すとおり、ネットブックはWebを中心に据えた機器であり、利用モデルはまだ流動的だが、この範疇に属するものはSplashtopにとってすべて意味を持つ。SplashtopがWebコンテンツにいつも寄り添うわけだ。インターネットに素早く簡単に接続できるからね」

 最近、DeviceVMもMoblin.orgプロジェクトへの参加を表明した。これはCPUにAtomを採用したネットブックのようなインターネットモバイル機器向けのLinuxソフトウェアスタックを構築し、メンテナンスしていこうというコミュニティ主導の取り組みである。

 Splashtop以外にもLinux環境の高速ブートを実現できる可能性はある。10月に開催された「Linux Plumbers’ Conference」でArjan van de VenとAuke Kokの両氏は、相当手を入れた2つのLinuxシステムを5秒以内でブートすることを実演してみせた。MoblinシステムイメージをAsusのEee PCネットブックに載せたものだ。

 Krupenin氏に、DeviceVMはこのような取り組みを脅威と見るのか、健全な競争と見るのか訊いてみた。彼によれば、Splashtopはどのような機器に搭載されるにしても、メインのOSと並立する選択肢となること目指しており、何かほかにインストールされ得るものに取って代わったり、それらと競争したりすることは考えていないという。「我々はエンドユーザーにこの選択肢を与えたいのだ。多くの人にとっては、必要なときパッとメールを送れること辺りにメリットがあるわけだから」

 したがって、DeviceVMとしては、Linuxソフトウェアスタックのいかなる部分を強化する取り組みにも興奮を覚えるという。とはいえ、多くの機器でブート時間の下限はBIOSの速度で決まってしまうため、システムROMに置かれるSplashtopの独自性は揺るがないわけである。

今後の取り組み

 先ほどのMoblinに関する動きは、DeviceVMに対するコミュニティの関与が新しい段階に入ったことを示すものである。DeviceVMはオープンソースのアプリケーションやユーティリティをいろいろ利用し、自社で行ったすべての変更に関するソースコードを提供しているが、上流のプロジェクトそのものとは、これまであまり積極的に関わってこなかった。

 また、Krupenin氏はSplashtopソフトウェア開発キット(SDK)がまだ正式に完成していないことも遺憾に思うと言う。DeviceVMは独立系のソフトウェア開発者との関係を築きたいと考えている。それは同社のブログを見ればよくわかることであり、Splashtopへのハッキングで報告もされている。Krupenin氏によれば、問題はひとえに時間的なものである。この若き会社にとって2008年は、OEMの顧客を新たに迎え入れるため急速に拡大しなければならなかったので、他のプロジェクトに差し向ける資源はほとんど残っていない。それでも、SDKはロードマップにしっかり踏みとどまっており、ソフトウェアの強化(Firefox 3など)もそれ以上に忘れられていない。

 SplashtopがIdeaPad S10eに搭載されるのは、2つの魅力的なアイデアが合体したことによる。DeviceVMがLinuxベースの瞬間起動環境で成功したことは間違いない。また、Linuxは急速に拡大する低価格ネットブックの舞台を支配している。この2つのトレンドが重なったとき、どこかのベンダーが瞬間起動SplashtopをメインのOSとして搭載したネットブックを市場に出してくるのだろうか。そんなことをつい考えてしまうが、この質問にDeviceVMは何も答えなかった。

Linux.com 原文(2008年11月12日)