装いを一新したKNOPPIX 6.0.1日本語版

 ハードディスクにインストールすることなくCD/DVDなどの光学メディアやUSBメモリから直接起動可能な、いわゆる“ライブ版Linux”。現在ではさまざまなディストリビューションが提供されているライブ版Linuxを一躍有名にしたのが、ドイツのKlaus Knopper氏を中心に開発されているKNOPPIXだ。今ではライブ版Linuxはそれほど珍しいものではなくなり、KNOPPIXのライブ版Linuxの先駆者としての役割は終わったとも見られていた。そんな中、2009年1月28日にリリースされたKNOPPIX 6.0は、Debian GNU/Linuxのドラフト版であるLenny(現在は安定版)をベースにスクラッチから開発することで、以前のバージョンからドラスティックな変化を遂げ、新たな目標に向かって進み始めたようだ。

 バージョン5.x系と比較して起動時間の大幅な短縮を達成した新たなブートシステム「Microknoppix」、音声対応メニューシステム「ADRIANE 1.1」の採用、標準のデスクトップ環境には軽量かつ高速性で話題のLXDE(図1)を採用するなど、再び大きな注目を集めている。

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図1:LXDEによるデスクトップ

 そのKNOPPIX 6.0.1の日本語版が、独立行政法人産業技術総合研究所から2009年3月6日にリリースされた。なお、KNOPPIXはこれまでDVD版としても提供されていたが、6.0.1に関しては、本家、日本語版ともに、収録アプリケーションを絞ったCD版のみが提供されている。

ADRIANE

 KNOPPIX 6.0.xの一番の目玉であるADRIANE(Audio Desktop Reference Implementation And Networking Environment) は、聴覚障害者などのための音声ガイドシステムである。KNOPPIXのデスクトップとADRIANEの音声デスクトップの切り替えはシステムのブート時に行う。本家のKNOPPIXは、デフォルトでADRIANEが起動するように設定されているが、現在ADRIANE自体が日本語に未対応ということもあり、日本語版はデフォルトでLXDEのデスクトップが起動する。ADRIANEを利用するにはbootプロンプトで「adriane」を指定する必要がある。

 図2にADRIANE起動画面を示す。ADRIANEでは、カーソルを移動するとメニューを読み上げてくれる。

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図2:ADRIANEの起動画面

 もちろん、ユーザがタイプした文字もその都度読み上げてくれる、たとえば「E-Mail」を選択するとメール作成画面が表示され、メールアドレスや内容を耳で確認しながら作成できるわけだ(図3)。

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図3:ADRIANEのメール作成画面

日本語版の拡張機能

 KNOPPIX日本語版では、メニューやメッセージの日本語化、日本語入力システム「SCIM+Anthy」、IPAフォント、日本語版OpenOffice.org 3.0.1の搭載といった日本語環境が構築済みだ(図4)。

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図4:KNOPPIX日本語版のOpenOffice.org 3.0.1

 さらに、日本語版独自の機能として、CD起動を高速するLCAT(Live CD Acceleration Toolkit)が組み込まれている。LCATは、起動時に読み込むファイルを光学ディスクに連続して配置することにより、起動を大幅に高速化する仕組みだ。筆者の環境では、LCATなしの本家KNOPPIX6.0.1の起動が約60秒だったのに対して、日本語版は約40秒で起動した。Microknoppix + LXDEとの相乗効果で、以前のバージョンとは比較にならないきびきびした動作が実感できる。

USBメモリへのインストール

 「flash-knoppix」(「システムツール」メニューから「Install KNOPPIX to flash disk」を選択)を使用すると、CD内のイメージファイルをUSBメモリにコピーし、USBメモリからKNOPPIXを起動することが可能になる(図5)。このとき、ユーザーデータや、システムの変更点は差分ファイルとして保存することが可能だ。USBメモリにシステムとデータを入れて持ち歩くことにより、いつでも自分の環境を再現できるようになるわけだ。

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図5:flash-knoppix

 flash-knoppixでUSBメモリにインストールした後、USBメモリからシステムを再起動すると差分ファイルのサイズを聞いてくる。たとえば、500MBなら「500」を指定する(「MB」など単位を指定すると動作しない点に注意)。これで、USBメモリのKNOPPIXディレクトリにイメージファイル「knoppix-data.img」が作成され、これ以降、差分データを扱うAUFS (Another Unionfs) のファイルシステムとしてマウントされる。

 このイメージファイルは、システムの拡張にも利用できる。KNOPPIXのパッケージ管理システムはDebianと同じAPTであり、あらかじめDebianのリポジトリが登録済みだ。デスクトップ環境のメニューにはGUIフロントエンドとして「Synapticパッケージマネージャ」が用意されている。これらのツールで追加したパッケージは、USBメモリに作成したイメージファイルに保存される。

実用性は今後に期待

 KNOPPIX 6.0.xは開発が始まったばかりということもあり、現状ではベータ版的な位置づけのようだ。登録されているアプリケーションの数も少なく、動作しない(もしくは不安的)な機能も多い。たとえば、ハードディスクへインストールする機能、追加コンポーネントのイントール機能などは正常に動作しなかった。また、CDなどの光学メディアや外部ハードディスクの自動マント機能は用意されていない。旧バージョンに対し、実用性の面では一歩後退した感は否めないが、起動及び動作の高速化など見るべき点も多い。今後の完成度の向上に期待したいところだ。