円熟期に入ったRHELクローン、CentOS 5.3

 商用Linuxディストリビューションとして圧倒的なシェアを誇る、Red Hat Enterprise Linux(以下「RHEL」)。今回紹介する CentOS は、そのRHELから商標や商用パッケージなどライセンス的に問題になる部分を取り除いて、再構築したフリーのディストリビューションだ。もちろん、Red Hatからのサポートは受けられないが、RHEL互換の安定サーバ環境を無償で構築できるため、特にサーバ用途として人気の高いディストリビューションとなっている。なお、RHELは多くのアーキテクチャをサポートするが、CentOS 5.3がサポートしているのはi386およびx86_64のみである。

CentOSとRHEL、Fedoraの関係

 CentOSはRHELとのバイナリレベルでの完全互換を目指しているため、そのリリースはRHELのバージョンアップに追従するかたちになっている。2009年4月1日にリリースされたCentOS 5.3は、2009年1月20日にリリースされたRHEL 5.3の互換製品だ。小数点以下のバージョンはマイナーバージョンであり、基本的にアップデート時には不具合の修正と小規模な機能の追加が行われる。今回のバージョンアップでは、不具合の修正の他にOpenJDKやGCC4.3といったパッケージの追加が行われている。

 なお、Red Hatが開発をサポートしているFedoraは、RHELのソフトウェアの実験の場としての役割を担っている。そのため、先進の機能をできるだけ早く提供する必要があり、リリースサイクルは約半年と短い。Fedoraで十分に検証された機能のみがRHELに取りこまれるわけだ。本稿執筆時点でのFedoraの最新版はFedora 10であるが、RHEL 5.xおよびCentOS 5.xは、2006年10月にリリースされたFedora Core 6をベースにしたものだ。2年以上前のFedoraがベースと聞くと古く感じるかもしれないが、その分システムの基盤が十分に“枯れて”いると見てよい。不要なトラブルを避けたい向きにはお勧めだ。

インストール

 インストールメディアはCD6枚(x86_64は7枚)、もしくは1枚のDVDにより提供される。高度なシステム認識機能を備えた、おなじみのGUIインストーラAnacondaによりインストールは簡単だ。

 インストールするパッケージは、個別に選択することもできるが「Desktop – Gnome」「Server」「Server -GUI」「仮想化」といったグループ単位で追加することもできる。また、「追加でソフトウェアリポジトリを加える」をクリックすることにより外部のリポジトリを加えることも可能だ。

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図1:パッケージグループの選択

 なお、CentOS 5.xからは「yum update」コマンドを実行するだけでアップデート可能だ。

CentOS 5.3の概要

 次に、CentOS 5.2とCentOS 5.3のデスクトップ画面を示す(図2図3)。壁紙のデザインが一新された以外、メニュー構成などはほぼ同じだ。

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図2:CentOS 5.2のデスクトップ 図3:CentOS 5.3のデスクトップ

 デフォルトのファイルシステムはLVMによる仮想パーティション上に作られたext3となる。なお、最近のFedoraのように、ネットワークの設定を自動化するNeworkManagerはデフォルトでは有効になっていない。ネットワークの設定は伝統的な「ネットワーク設定」ツール(図4)で行う。

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図4:「ネットワーク設定」ツール 図5:「セキュリティレベルの設定」ツール

 また、ファイアウォールの設定とSELinuxの有効/無効の切り替えは「セキュリティレベルの設定」ツール(図5)で行う。

パッケージマネージャ

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図6:「パッケージマネージャ」(piruit)

 CentOS 5.3のパッケージ管理システムはyumで、そのGUIフロントエンドには「パッケージマネージャ」(piruit)が用意されている(図6)。現在Fedoraのパッケージ管理ツールは、ディストリビューション間のパッケージ管理を統一化する「GNOME Packagekit」に移行しているが、現時点ではキーワードによるパッケージの検索機能などはpiruitの方が圧倒的に使いやすい。

 基本的なインターネット上のリポジトリは、/etc/yum.repo.d/CentOS-Base.repoで設定されている。初期状態でCentOSサイトのBase、Update、Addonsといったリポジトリが有効になっている。なお、追加パッケージ用リポジトリとしてExtrasとPlusに加えて、CentOS 5.3ではユーザーから提供を受けたパッケージを集積するContribリポジトリが追加され、必要に応じて有効にすることが可能だ(4月6日の時点では、Contribリポジトリは空の状態だった)。

 また、Fedoraにはない便利な機能が、/etc/yum.repos.d/CentOS-Media.repoで設定されている、ローカルDVD/CDからインストール可能なリポジトリだ。ネットワーク回線が細い場合などに役立つだろう。たとえば、CentOSのインストールDVDから「Samba」をインストールするには、DVDを/media/cdromにマウントした上で、つぎのように実行すればよい。

# yum --disablerepo=\* --enablerepo=c5-media install samba

Xenの実行環境として有用

 サーバ用途としては安定したシェアを誇るCentOSであるが、個人ユーザの場合には先進性を重視しFedoraを選択するケース少なくないだろう。ただし、CentOSには安定性以外にもアピールする点がある。それが仮想化機能だ。オープンソースの仮想化ソフトウェアの代表と言えるXenだが、Fedora 10ではXenの管理を担当する特権的な仮想マシン“ドメイン0”が動作しないのだ。これはFedoraの仮想化機構がXenからKVMへの移行段階にあるためだ。

 一方、CentOS 5.3はドメイン0として実行可能なため、さまざまなOSをその上で動作させることが可能だ。仮想化ソフトの管理を行うGUIツールとして「仮想マシンマネージャー」(図7)が搭載され、仮想マシンのインストールや管理が簡単に行える。将来的にはRHELやCentOSにもKVMが標準搭載となるが、現在のような過渡期には、実績のあるXenが安定したOS上で利用できるメリットは大きいだろう。

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図7:「仮想マシンマネージャー」