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アーティストのビジネスモデル

2009年11月02日 12:20 八田真行 1 2

これはこれで傾聴すべき意見だと思うが、最近になると、そもそも1000人も要らないのではないかという話すら出てきている。ミュージシャンのマシュー・エベル氏は一般的にはほとんど無名の新進ミュージシャンだが、基本的に音楽活動のみで生計を立てている。彼の収入(額は明かされていないが「家賃を払って車を持ち、好きな物を好きなときに食べられる程度」ではあるらしい)の26.3%は、わずか40人のハードコア・ファンからもたらされたものだ(In Defense Of 1,000 True Fans - Part II - Matthew Ebel)。いわく

インタビュアー: 「1000人の忠実なファンがいれば…」という理論はうまくいくと思いますか?

エベル: もちろんだ。しかし、正直言って生活のためだけなら1000人も要らないと思うよ。うちのウェブサイトに1000人もVIP有料会員がいたら、世界ツアーが出来るだろうね。

さすがに40人は極端な例かもしれないが、ケリー氏の文中でも挙げられていたように、数百人程度のコアなファンに立脚して自分のキャリアを構築するミュージシャンや作家は、このところ増えてきているようである。

ところで補償金問題に限らず、私が日本における著作権の議論に関して何となく腰が座らない思いがする理由は、突き詰めれば将来のアーティストのビジネスモデルが見えない、あるいはコンセンサスが取れていないというところにある。ビジネスモデルというと大層な話のように聞こえるが、ようするに、将来の平均的アーティストとはどのようなものなのか、どういう風に生活しているのか、どうやって稼いでいるのか、というイメージがはっきりしないということだ。

私自身は、将来のアーティスト像とは、ケリー氏が説くような、あるいはエベル氏が体現するような、数百人から1000人程度のファンを抱えた独立フリーランスの(別に組織に属していても良いのだが)「マイクロセレブ」のようなものと想定している。よって、そうした人々が生きやすいような社会や制度に変えていく(あるいは彼らを支援するための教育や技術的なインフラを整える)というのが肝要だと思うし、そのための支援は惜しんではならないと思う。

逆に、たとえ一人あたまに均せば少額だと言っても、ただのんべんだらりと筋の通らない事実上の補助金(地上アナログチューナ非搭載のデジタル録画機器の私的録画補償金は本質的にそのようなものだと私は解釈している)をばらまいても意味がない。別に私のヴィジョンが絶対に正しいと強弁するつもりはないが、結局のところそうした目指す目標のようなものが議論の当事者間で異なるので、いつまで経っても制度設計が迷走するのである。制度は手段であって目的ではない。だから、制度について細かいところを詰める前に、その制度によって何を実現したいのかを入念に考える必要があると私は思うのだ。そのためにも、私は権利者や代理人ではなく、アーティストたち本人が、自分が今後どのような存在として生きていきたいのか、もっと語って欲しいと考えている。

最終更新:2010年01月02日 17:07