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ジャーナリストのビジネスモデル

2009年11月12日 16:08 八田真行 1 2 3

アメリカではNew York Timesなど世界的にも名の知られた有力紙が大幅な収入減で悲鳴を上げ(紙新聞への処方箋)、地方ではドミノ倒しのごとく地方紙が倒産しているようだ。日本でも廃刊までは行かずとも経費削減のため夕刊を廃止した地方紙は多く、全国紙も遠からず同様の状況になるに違いない。新聞のみならず、雑誌等の紙媒体は軒並み苦境に立たされているようである。

新聞や雑誌の消滅がジャーナリズムの消滅につながるかのような論調もあるが、私はそうは思わない。ニュース報道はもちろん健全な社会にとって必要だが、それを生み出す主体として大規模でパーマネントな組織としての新聞「社」や雑誌「社」が必要かどうかはよく分からないからだ。新聞社が消えても雑誌社が消えてもジャーナリストは残る。だとすれば、個々人としてのジャーナリストがきちんと仕事を続け、かつ食べていけるような商売の仕組みの創出が望まれるわけである。このあたりは、おそらく先だって取り上げたアーティストのビジネスモデルと全く同種の問題が発生していると考えられる。

この種の問題を考える上で、ここ数年私が注目していたのはジェフ・ドーガティの試みだ。ニュージャージーのローカル・ペーパーを皮切りにフロリダの中堅紙を渡り歩いたドーガティは、2001年から2005年までシカゴを拠点とする有力紙Chicago Tribuneの記者となり、調査報道に従事していた。

ドーガティが有利だったのは、独学ながら彼がITに関してかなり突っ込んだ知識を持っていたということだろう。地方紙の記者だったころも持ち前のコンピュータを活かした統計分析の知識を活かし、政府や公共機関のデータベースを精査して政府の無駄や自動車の安全性、少年犯罪の問題等に切り込む記事をものしていたそうである。

2005年になって、彼のITに関する知識は記事執筆とは別の方面に活かされることになる。ある財団が運営する、報道に関する革新的なアイデアに授与される奨励金制度に応募し、34万ドルを引き出すことに成功したのだ。これを元手に独立し、Ruby on Railsを用いて自前で立ち上げたのが、Chi-Town Daily Newsである。1876年から1978年まで存続し、13個ものピュリツァー賞を受賞したシカゴのかつての名門紙Chicago Daily Newsと同じ名前を冠するというあたり、ドーガティの並々ならぬ意欲が感じられるではないか。

オンライン・オンリーの、しかし内容的には地方政治から街の出来事まで広くカバーする本格的な地方紙を、広告ではなく寄付にのみ立脚した非営利団体で運営するというのがドーガティの試みの肝だった。詳しくは後述するが、既存の地方紙はあまりにも規模が大きすぎ、高コスト体質であるというのが彼の問題意識のコアにはあった。また、そもそも既存の地方紙は、地方紙という割にあまりその地域の話題を取り上げていないという批判もあった。ITを駆使した小回りの利く組織で、より低コストで、もっとローカルに密着した報道を、というあたりに勝機があるとドーガティは見たのだろう。

Chi-Town Daily Newsは常勤の記者を抱えて本格的な調査報道を行う一方、いわゆる市民ジャーナリストからの記事も掲載した。日本においては、市民ジャーナリズムというのは正直個人のブログの延長という程度のものが多く、内容はともかく文章のレベルでひどいものも散見されたが、取材や記事執筆のノウハウを教える無料のワークショップを定期的に行い、ジャーナリストの育成にも取り組んだのである。

そんなこんなでChi-Town Daily Newsは5年続き、地方紙の新たなモデルとして全国的な注目を集めるようになった。彼がかつて所属していた巨人Chicago Tribuneが、2007年には買収され、それでも結局翌2008年にはチャプター11による破産へ追い込まれたのとは対照的だ。

最終更新:2010年01月12日 17:08