FOSSプロジェクトのマーケティング活動

フリーおよびオープンソースソフトウェア(FOSS)のプロジェクトを売り込む必要があるのはなぜだろうか。結局のところ、FOSSプロジェクトは何も売ろうとはしていないし、周知のことだがプログラマはマーケッタとは反りが合わない。それでも、ちょっとしたマーケティング活動は多くのプロジェクトにとって意味のあることだ。まずはプロジェクトの名前をFreshmeatSourceForge.netに載せるだけでも良いが、もう少し本格的な取り組みをしてユーザや組織にFOSSプロジェクトのコードが利用できることを知らせれば、より多くの人々に使ってもらえるだろう。

マーケティングは新たな開発者をプロジェクトに引き寄せ、プロジェクトを発展させることにもつながる。ゆくゆくはFirefoxやOpenOffice.orgのように発展して保守的な独占的ソフトウェア製品に十分に対抗できるようになれば、マーケティング活動が世界制覇を目指す計画の重要な一端を担うことになるかもしれない。

我々は、無理をして広報担当の会社と契約を結んだり、変更ログに新しいエントリが追加されるたびにニュースリリースを投稿するように勧めているわけではない。しかし、プロジェクトの基本情報を容易に参照できる形で提示し、マーケティング資料の書き方と配布の仕方を学べば、プロジェクトをよりユーザフレンドリな組織に変え、繁栄させることができるはずだ。また、すでにマーケティングに取り組んでいるほかのFOSSプロジェクトについて調べることで、それほど苦労しなくてもプロジェクトを売り込める別の方法が見つかるかもしれない。

基本情報の提供

プレス関係者と一般ユーザの双方に対してプロジェクトを売り込むために最初に行うべき非常に簡単な手順は、プロジェクトのWebサイトに基本的な情報を目立つように掲載することだ。多くの人々も同じだろうが、我々があるプロジェクトを題材として取り上げたり、記事を書こうとするときに最初にするのは、そのプロジェクトのWebサイトを探し出して、記事にする価値があるかどうかを判断することだ。情報がほとんどないか、具体的な情報を隠しているプロジェクトは、Gaimのように十分な情報を提供し続けているプロジェクトにはかなわず、候補から外れることが多い。

では、どんな情報を提供すればよいのだろうか。まず何より、どんなプロジェクトであれ、ホームページ閲覧中にすぐ目に付くように「About(概要)」ページを用意しておくことだ。そのページには、最低でもプロジェクトの概要と利用しているライセンスについての記述がほしい。できれば、プロジェクトの経緯、現時点の特徴と利点、もしあればニュースリリースへのリンク、GUIアプリケーションの場合は現行バージョンのスクリーンショットなども含めるとよいだろう。

プロジェクトが継続的に営利目的の企業と関わっている場合は、FOSSについて簡単に説明したページや、同等の独占的ソフトウェアにはない利点を述べたページがあってもよい。また、プロジェクトメンバーの一覧を用意することもできる。主要メンバーだけを載せるのか、全員の名前を載せるのかにより、プロジェクト内の関係がわかるかもしれない。

プロジェクト向けの簡単なスタイルガイドを作成するのも悪くはない。たとえば、プロジェクトでは”MyProject”、”Myproject”、”My Project”、”myproject”のうち、どの表記を使うべきだろうか。オープンソースプロジェクトの多くは、プロジェクトのWebサイトやドキュメントで色々な表記をごちゃ混ぜに使っている。さまざまな名前の開発者についてスタイルガイドを用意するのも面白いかもしれない。

何よりも、基本的な連絡先のリストを提示するのを忘れず、かつその情報を最新の状態に更新しておかなければならない。

企業でさえ、こうした必須の情報を用意していないところが多いのには驚かされる。

この情報を載せるためには、各種の問い合わせに対応できる、プレス担当の人物やチームを決めておかなければならない。また、プレス関係者からプロジェクトへの連絡に使えるプレス対応用の電子メールアドレスを作成し、そこに送られてくるメールのチェックと問い合わせへの回答を頻繁に行う必要がある。FOSS関係の記者は、ボランティアのプレス担当者が必ずしも企業のプレス担当者ほど迅速に対応できるわけではないことを理解しているとはいえ、彼らにも待てる限界はある。ニュース記事(すぐに掲載の必要があるもの)であれば、多くの場合、記者は12時間以内、できればもう少し早い返信を求める。一方、特集記事(ほぼいつでも掲載できるもの)の場合は、おそらく1日待ってもらえるだろう。

たとえすぐには質問に答えられなくても、いつまでに回答できるかを記者に返信しておくこと。この時刻までに答えが届くとわかっていれば、我々の側ではその回答を待って掲載できるように記事を保留にしておくこともできるのだ。

こうした仕事に不慣れな場合、記者を満足させるにはそれなりの時間がかかるかもしれない。しかし、記者を喜ばせて好意的に取り上げてもらえれば、結果として自分自身も満足できる記事になるはずだ。潔癖なジャーナリストであれば、どんな扱いを受けようとも偏見のない記事を書こうとするだろうが、取材に協力してくれた人々には無意識のうちに配慮してしまうのが人の常というものだろう。

プレスリリースを書く

プロジェクトの基本情報をWebサイトに載せ終えたら、プロジェクトへの注目度が高まることを期待してニュースリリースを書きたくなるかもしれない。マーケティング資料の作成に取りかかる際には、プロジェクト外部の人々が興味を持つような情報があるかどうかをまず自問する。

新しいメンテナがプロジェクトに加わったという知らせは、プロジェクト内の人々にはきわめて重要かもしれないが、よほど名の通った開発者が来た場合を除けば、きっと外部の人々は気にも留めないだろう。それどころか最近は、ある企業がFOSSプロジェクトのソフトウェアを採用するという記事も ― たとえWindowsからの乗り換えであっても ― それがFortune 500社に相当する企業か、ほかに類のない機能を備えたソフトウェアでなければ、ニュースにはならない。

ほとんどの記事はソフトウェアの新規リリースとその特徴について書かれたものである。ときには、Get Firefoxキャンペーンのようなプロジェクトの活動がニュースになることもある。また、できることならあまり書かずに済ませたいだろうが、一般の人々をも巻き込んだ論争に対する公式な回答の内容が取り上げられることもある。

執筆にあたって最初にすべきことは、マーケティングについての先入観を捨てることだ。とにかくどんな市場であれ、誇大広告や見せかけの盛り上げを通してFOSSプロジェクトを売り込む必要はない。FOSSプロジェクトに関心を寄せる人なら誰でも、マーケティングのための行き過ぎた宣伝よりも、事実をうまくまとめた記述のほうに反応してくれるはずだ。プロジェクトの売り込みを履歴書作成の延長として考えてもよい。どちらも、誤解が生じないように事実だけを記しながら、自らを最大限にアピールできるように表現する必要がある。

すべての題材は要点がなるべく早くわかるようにし、できるだけ明解な言い回しを使うべきだ。また、伝えたいメッセージに読者の関心を向けさせるのに3行以上かけてはならない。営利企業がよく用いる大げさでもったいぶった専門用語を連発して行数を無駄に使ってはならない。

ニュースサイトには1日に数十件というニュースリリースが届くため、該当分野における「世界的リーダー」の座に就くことを主張するような決まり文句は編集者の目を曇らせるだけである。そうではなく、なぜそのニュースが興味深いのかを見出しと最初の1文を使って正確に説明したうえで詳細を記述するとよい。そうすれば、原稿を受け取った人は最後まで目を通してくれるだろう。読み手が成人性の注意欠陥障害(ADD)患者であると考えて原稿を書けば、大きな過ちを起こすことはないはずだ。

こうしたことがあまりに面倒だと思われるなら、内容の詳細と新しい機能について記したごく普通の電子メールを送るだけでも構わない。ニュースリリースの最後に簡単なプロジェクトの経緯を添えてもよいだろう。ただし、電話または電子メールですばやく回答を返せるだけの知識を持っている誰かと連絡が取れるように、問い合わせ先の情報を明記するのを忘れないように。

また、ニュースを投稿する前に、表記や文法上の誤りがないことをチェックすること。原稿のちょっとした間違いでニュースが不採用になることはないだろうが、プロとしての信用を失うだけでなく、最初に原稿を読む人に不愉快な思いをさせることになる。一般に、ニュースの内容がわかりやすければわかりやすいほど、採用される可能性は高くなる。

最後にもう1つ。マーケティング資料の準備と送付を担当するのは、プロジェクト内の開発者以外のメンバーが理想的だが、その担当者がプロジェクトについて何も知らないにも関わらず、マーケティングの知識さえあれば何でも売り込めると考えてしまう、という営業上のよくある誤りは避けること。ただし少なくとも、そうした非技術系のマーケティング担当者は、プロジェクトが開発したソフトウェアの上級ユーザでなくてはならない。

プレスリリースの投稿

今日、主流となっている業界誌やニュースのサイトは5年前に比べるとずっと多くのFOSSプロジェクトを扱っているが、それでも詳しくFOSSプロジェクトを取り上げることに(特に小規模または無名のプロジェクトの場合は)それほど前向きではない。そのため、NewsForgeやLinux.com、Linux Today、Linux Weekly News、それにSlashdotなど、主にFOSSを対象としたサイトに投稿するほうがいいだろう。原稿を書きたくないというなら、こうしたサイトにプロジェクトについて書いた文章を投稿し、ちょっとした謝礼を添えて記事してもらってもよい。

一方、高校の英語クラスで受けた精神的な痛手がまだ尾を引いているなら、こうしたサイトにプロジェクトの話題を投げることもできる。常勤およびフリーランスのライターは常に新しい記事のネタを探しているので、遠慮はいらない。たとえば、プロジェクトの背景とそれが興味深い理由を添えて、我々のeditors@ostg.com宛てにメモを送ってもらえればよい。毎日、我々のもとには企業のプロジェクトから大量のニュースリリースが届くが、本当はもっとオープンソースプロジェクトからの投稿が増えることを願っているのだ。

ほかのプロジェクトから学ぶ

ここで述べた提案をすべて実現するには、時間がかかる。こうした提案には、多くの人々にとって吸収が難しいさまざまな考え方が示されている。マーケティングをもっと理解するための1つの近道は、ほかのプロジェクトから学ぶことだ。OpenOffice.orgや PostgreSQLのような大規模プロジェクトのマーケティングページをじっくりと読み、適切および不適切と感じた点を書き留めておく。採用の可能性を見極めると共に、どうすれば満足のいくものになるかに気付くことができる感覚がすぐ身につくだろう。

もう1つの方法は、何度かのニュースリリースを通して、ひいきにしてくれる数名のライターまたはいくつかのサイトとの関係づくりに努めることだ。ただし、同じ情報を繰り返し送り付けたり、数日前に送ったメッセージが届いたか、を電子メールで何度も尋ねてはならない。急いでニュースを公開してもらう必要があるのでない限り、通常やるべきことといえば、何らかの依頼を承諾したのに1週間近く返信がないときにフォローアップを行うことぐらいだ。

その代わり、プロジェクトのレスポンスの早さを示し、担当ライターからの要請に対応できる専門家を用意しておくことは重要だ。自分たちが出展するLinuxWorldやO’Reilly Open Source Conventionに担当のライターが参加を予定していないか確認し、直接会って自分の売り込みに努力する。仕事で関わることになるライターもまた、おそらくはFOSSコミュニティのメンバーなので、仕事上の関係を築くのは難しくないはずだ。彼らと一緒に仕事ができるようになれば、しめたものだ。あなたのもとには希望のテーマが舞い込むようになり、彼らもまた望みどおりの記事が書けるようになるだろう。

たとえば昨年、Mozillaが最初にいくつかのFirefoxのセキュリティアップデートをリリースしたとき、それから数時間もしないうちに、NewsForgeのあるライターはFirefoxのセキュリティに関する記事のことでMozillaのある担当者に電話をかけることができた。実は、数回のニュース掲載の経緯から、Firefoxのセキュリティアップデートが完成間近になった時点でMozillaの担当者からそのライターに連絡があったのだ ― 念のために言うが、弊誌のライターがMozillaの担当者に連絡をとったのではない。たとえこのライターがこれらのアップデートのすべてを記事にできなかったにせよ、こうした関係から誰もが恩恵を受けることができた。

もちろんMozilla Foundationには、問い合わせを受けてからたいてい数時間以内に質問に答え、広報担当者を準備できるような専任の広報担当会社がついている。特に始めのうちは、あなたのプロジェクトで同様のサービスを提供することはできないかもしれない。しかし、マーケティングに対する嫌悪感を克服できれば、自らのプロジェクトとジャーナリストに貢献するだけでなく、もっと重要なこととして、読者と将来のユーザのために役立つことにもなるのだ。

NewsForge.com 原文