[JM:03662] ライセンス条項の遵守、または著作物利用許諾

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matsuand michi****@gmail*****
2022年 5月 15日 (日) 12:21:49 JST


[JM:03642] 謝辞について
https://osdn.net/projects/linuxjm/lists/archive/discuss/2022-May/003641.html
から派生させる形で、考えたい内容があります。

本来は上のメールでは、謝辞のあり方を議論するものでしたが、
その話の流れの中で、いろいろと著作権法的な話が出てきており、
それについて、疑問や整理要と考えるものが出てきたものと
考えています。そのメール趣旨とは若干ずれますが、
ゆくゆくはそこに収束させる意味で、そして法的知識を
各位とも共有できることを目指して、考えを示します。

主に原著作者の名前を明示することに関する話をあげます
が、それだけであってもいくつもの観点を含むため、
必要に応じてスレッド分岐してください。


[JM:03633] Re: [POST:RO] GNU tar 全 man ファイル
https://osdn.net/projects/linuxjm/lists/archive/discuss/2022-May/003632.html
On Fri, May 13, 2022 at 4:45 PM IIJIMA Hiromitsu
<delmo****@denno*****> wrote:
...
> 一般に、作者名の明記を省略するには「事前に」当該作者からの許諾が必要です。事後承諾でいいだろうと高を括っていたら「無断で使うとはけしからん。許可は出さん。配布済みの製品の回収・廃棄を求める。」という「訴状」と「仮差押」がある日突然届くリスクがあります。

いいじまさんが、上のように述べられました。
これを額面どおりに受け止めると、やや難があります。
作者名の明記を省略するには許諾が必要、と述べられており、
その裏を返すと、明記を省略しないのであれば、あたかも
許諾が不要、と述べられているように受け取られ兼ねません。

原著作者の名前を表記するしないに関係なく、
特段に許諾が不要との条件が表明されていない限り、
他著作物を使用するには原著作者の許諾が必要です。
結局、許諾を得ることと、原著作者名を明記することは
別である、ということです。

原著作者が許諾を与えるにあたって、
原著作者名を明記せよとの条件をつける場合もあります。
その場合には明記が義務づけられますが、そうでなければ
義務にはならず、後は利用者側の判断になると思います。
少なくとも日本の著作権法においては、名前を表示しない権利
(著作者人格権の中の氏名表示権において表示するしないを
原著作者が定められる権利)もあります。表示するなと言われ
れば、表示しないようにしなければなりません。

ここで注意すべきと思うのは、著作権法の条文内において、
原著作者の名前を明記することは義務付けられているわけでは
ありませんから、原著作者が明示を要請したことに対して、
その要請に従わず名前明記を怠った場合、それは著作権法違反
になるのではなく、著作物の使用許諾契約に反したという、
随意契約違反になる、と私は解釈します。著作権にからめて
著作権人格権の侵害と、おおくくりに提訴する場合はありそう
ですが。・・・
(著作権法を根拠とする方が、刑事罰を与えられるという点で
訴える側からすると強力な措置であるとも考えられます。)

義務づけられた場合であっても、どこに明記すべきかは
原著作者側から強引に指定することは、なかなか許されない
のが実情かと思います。たとえば「私の著作物を引用するなら、
二次著作物のタイトルに私の名前を入れなさい」としたら
これは行き過ぎです。慣行、社会通念上の許容される範囲内において、
分かりやすいところに明記すれば、義務は果たしたものと
解釈されて然るべきと思います。
(だから私の他所での主張に通じる話として man ページの
コメントに謝辞を書けば事足りるという考えに通じます。)
GFDL では実は、ライセンス表記などは、ここそこに書きなさい
という指示があるのですが、では man ページの場合、どこに
なるのか、解釈の余地があります。

----
少々観点を変えます。

謝辞を通じて、あるいは参照元や引用元の原著作者を明記する
ことを通じて、著作権人格権侵害のリスクを軽減する、という
話の流れで、ここまできていました。

どちらかというと、名前を明記することで、その法的リスクが
なくなるかのように受け止めてしまいそうですが、大切な観点
が大きく抜けています。

その一つは、すでに上で述べたように、事前に許諾を得るという
ことです。我々のようなプロジェクトでは電子メールで原著作者
に確認を取るくらいで済まされるかもしれません。これが私企業
や官公庁が作業を進めるのであれば、直接訪問して許諾を得たり、
さらに契約書を交わしたりということも行うのでしょう。

もう一つ、これまで一切触れられていないことですが、
原著作物の引用、参照等の二次利用にあたっては、その引用の
仕方、参照の仕方、加工の仕方、翻案の仕方といった、その
本質的な著作表現こそが、大問題となります。たとえ許諾を
得ていても、たとえ名前を明記していても、この著作表現が
不適切であれば、原著作者の著作者人格権の侵害となります。
為すべきなのは、そういった適正な著作活動ということに
なります。当然すぎるために触れられてこなかったのでしょうか?

---
ついでにもう一つ。
気にかかる点があります。

[JM:03625] Re: [POST:RO] GNU tar 全 man ファイル
https://osdn.net/projects/linuxjm/lists/archive/discuss/2022-May/003624.html
On Fri, May 13, 2022 at 12:59 PM 長南洋一 <cyoic****@maple*****> wrote:
...
> 私がやった tar-1.32 の翻訳の場合、--warning=KEYWORD 指定で tar が出す
> ワーニング・メッセージについては、Masahito Yamaga さんによる tar-1.32 の
> メセージカタログの翻訳を (少し手を入れて) 使用しています。そこで、
> 「訳者謝辞」をマニュアルの最後に付けています。他人の翻訳を利用する場合は、
> acknowledgement を付けるのが、翻訳者としての礼儀ですし、盗用だと言われ
> ないための用心でもあります。付けておいてください。
> tar-1.32 の「訳者謝辞」は、こんな文章でした。
>
>   tar の出す警告文は、Masahito Yamaga さんによる tar-1.32  のメッセージ
>   カタログの翻訳を利用させていただきました。お礼を申し上げます。 ただし、
>   このマニュアル内で読みやすいように、すこし手を加えたところもあります。
>   ご了承ください。

とご説明されました。
ここで気にかかる問題点は、すこし手を加えた、というところです。

ご説明の様子から、原著作者に使用の承諾を事前に得たものと推察
しますが、そのときに加工することについても承諾を得ていますか?

もし万が一、承諾を得ていなかったとしたら、
著作権法上で言う翻案権の侵害に該当します。
原著作者には、原著作物を加工編集する権利、たとえば分かりやすい
ところでは、文書をデジタルデータ化してオンライン発表するとか、
その文書を元に映画化するとか、音楽表現に結びつけるとか。
すべて原著作者の翻案権の範疇にあるため、これを侵害しないように
どのような加工を施すのか、原著作者の許諾確認が必要になります。

---

ここまで書いてきて、さて GNU ライセンスを前提とした場合、
上の議論や意見や解釈はどうなるでしょう。ここまで大量に
書きすぎたので、皆様のご意見やご指摘を受けて、改めて考えます。


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